「何悩んでんのか知らねぇけどよ。悩むんなら隣で悩めよ」
「え?」
「お前がそばにいねぇとオレが悩むだろ!」
ナツはだむだむ、と右足を踏み鳴らした。繋がれたままのルーシィが、上下する足を追って首を動かす。
「……え?」
間抜けた声と共に、彼女はぼふ、と赤くなった。
「ど…な、何それ…?」
「わかんねぇよ。わかんねぇけど。ルーシィはそばに居る。じゃねぇと…ムカつく…っつーか、腹立つっつーか、気に食わねっつーか、落ち着かねっつーか……嫌だっつーか…」
自分の内面を探るかのように零された言葉に、リサーナがロキを見上げた。
「なんか、むず痒くない?」
「あ、リサーナもそう思う?」
「あ?なんだよ?」
「「べっつにー」」
ロキはリサーナとぴったりハモって、にこやかに顔を見合わせた。楽しむようにナツ達に視線が戻った横顔に、ああ、美人だなあ、と思う。
ルーシィは呆然と彼女の一連の反応と、ナツを見比べている。それに、ロキはにこりと笑った。
そう。大丈夫。君が心配するようなことは、何もない。
「あれ…え、え?」
「んだよ」
混乱するように目を瞬かせたルーシィに、ナツは肩を聳やかせた。
「ルーシィ、お前…ロキとオレと、どっちが良いんだよ」
「ど、どっち、て、何?」
「オレって言え。ナツって言えよ。泣くぞ。言わなきゃ泣くぞ。お前のせいでオレが泣くぞ。いいのかよ」
絶句するルーシィの代わりに、ロキは片手を上げた。
「もう泣いたら良いんじゃないかな、ナツ」
「ひでえ!」
「うわ、ホントに泣いた」
「泣いてねえよ!」
噛み付きつつもナツは目の端を擦った。ルーシィの手を放して、ロキを睨んでくる。
「くそっ、ロキのせいだ!」
「今度は僕のせいかい?良いよ、相手になる」
ロキは右拳を握って、左手で支えた。まだ何が起こっているのか飲み込めないらしいルーシィに、ちらりと視線を送る。
さあ、今だよ。
彼女は口を開いた。
「えっと…止めなさいよ?」
ナツの頭がぴくん、と反応した。嬉しそうに――心の底から嬉しそうに、笑う。
「ヤダ!」
「は?」
はっきりと言い切ったその返事に、ルーシィが目を点にする。ロキは笑いを噛み殺した。
ああ――ごめん、ルーシィ。やっぱり君には、リサーナと同じことは出来ないよ。
「よっし、喧嘩だ!ロキ!」
「負けないよ、ナツ」
「ちょ、ちょっと!?やっぱり止まらないんじゃない!」
ナツは止まらないわけではない。止めないのだ。――止めて欲しいから。止まるまで、止めて欲しいから。
ルーシィに助けを求められたリサーナは、くすくすと笑いながら「頑張って」と手を振った。
「ナツ!止めなさい!」
「やーだ!」
「ロキ!」
「ナツが止めたらね!」
ナツは幸せを顔いっぱいに描いて、こちらに向かって駆け出してくる。
予想していた拳を片手で受け止めて、ロキは腰を捻って腹に一発、くれてやった。