「こんな良い男が隣に居るのに、目を瞑っちゃうなんて勿体無いよ?」
「…はいはい」
しぶしぶ視線を向けてやると、彼は意に介した気配もなくにっこりと微笑んだ。毒気を抜くような笑みに、怯む。
整った顔立ち。薄い色のサングラスに隠れた優しい瞳。ともすれば色っぽい、流れるような動作。ロキは妖精の尻尾としてはやや異質ではないか、とルーシィは思っている。星霊であるという以上に、ロキには他の連中にはない品がある。もちろん乱闘も好むのだが、どちらかと言えば青い天馬のトライメンズに雰囲気が近い。
思わず観察するように見つめていたルーシィに、ロキがくすりと笑った。
「何?僕に惚れた?」
「ううん」
「僕はいつでもルーシィにぞっこんだよ」
「あんた、何しに来たのよ」
口説くのなら他を当たって欲しい。そんなことに付き合う気分ではなかった。
カップに口を付けると、ガタン、と大きく椅子が倒れる音がした。ロキが少しだけ振り返る。
彼は目を細めてゆっくりと足を組み替えてから、そっと呟いた。
「止めないの?」
「…うん」
ナツは今度はガジルと睨み合っているようだ。血の気が多い彼らは誰かと暴れていないと気が済まないのだろうか。
しかし今回も出る幕は無いだろう。ルーシィは多分、と小さく前置きした。
「レビィちゃんが止めるよ」
「え…あ、本当だ」
「上等じゃねえか!」とガジルが叫ぶ。気合と共に破壊音が響いた。軽い振動の後、レビィの声が聞こえる。
「ガジル!」
「うぉ、飛び出してくんじゃねえ!」
背中を向けたままでも、何が起こっているかは大体わかる。「仕事行くって約束でしょ!」と言う声音と彼女の行動パターンから、手を腰に当てているだろうことも容易に想像が付いた。
ロキはルーシィの視界に割り込むように、顔を寄せてきた。
「僕ならルーシィに止めて欲しいけどな」
「止めなきゃならないようなことしないでしょ、ロキは」
「そう?僕はなんだってするよ?」
完璧なまでの笑みを浮かべて、ロキは顎に手を当てた。
「ルーシィのためならね」
「…ありがと」
いつもは流すその台詞が、心に沁みた。
反応が珍しかったのか、ロキが一瞬目を瞠った。しかしすぐに、満足したように頷く。
「君のためなら、たとえ地獄にだって行く覚悟だよ」
「ありがとう、頑張ってね」
「え、見送るの?」
たらり、と冷や汗を流した彼に、笑顔で手を振ってみる。肩を落とす反応が可愛らしくて、ルーシィは目を細めた。
「誰にでもそう言ってるんでしょ」
「ルーシィにだけだよ」
「はいはい」
こう言えばロキが『ルーシィだけ』と言ってくれることくらい、わかっていた。願い通りの言葉を手に入れて、噛み締めるように反芻する。
「……ありがとう」
ロキは何故か、心配そうな顔をした。