グレイと喧嘩するとリサーナが止める。
ガジルと喧嘩するとレビィが止める。
いつからか、ルーシィが止めに来なくなった。

おかしい――。ナツは身体の中が空洞になったような心地でカウンターの背中を見つめた。金髪の隣にはコート姿のオレンジ頭が、当たり前のように陣取っている。
喧嘩の仲裁をしないこと自体は、なんらおかしくはない。妖精の尻尾に入ったばかりの頃は乱闘一つに目を丸くしていた彼女だったが、今はもう慣れきっていて、余程のことがない限り口を出すことはない。だが、その余程のこと――魔法を使用する喧嘩の場合は、大体の人間が窘めてくる。一番近くに居るルーシィが、真っ先にナツを止めるはずだった。
視線の先で、ロキが優しくルーシィの髪を一房取って、そっと唇を寄せていく。いつも侍らせている女達にやるのと、同じ行動。だから不自然ではない。ない、が。

ムカつく。

今日はまだ一度もルーシィと言葉を交わしていない。それなのに、ロキが触った。自分の前に、ロキが。
ルーシィに初めにおはようと言うのも、最後におやすみを言うのも、自分でありたい。
そう思う理由に気付けるほどナツは自分を理解してはいなかった。そもそも考えてすら、いなかった。ただ目の前の光景に納得できない。それだけ。
感情のまま足を踏み出したと同時に、ロキが振り返る。鏡を見ているかのような、挑戦的な瞳がナツを捉えた。

「お…?」

ロキが直接ナツに喧嘩を仕掛けてくるのは珍しい。乱闘にいつの間にか参加していることはよくあるが、彼が切欠を作ることはまず無かった。
かたん、とスツールを降りたロキが、手首を回しながらにこりと笑う。その表情が薄ら寒くて、ナツは顎を上げた。

「おう、なんだよ。やんのか?」
「そうだね。たまには」

好都合だった。売るつもりだった喧嘩を言い値以上で買ってもらえたようなものだ。
ちょいちょい、と手招きして口角を上げる。ロキが相手なら。

きっと、ルーシィが止めに入る。

予感ににやり、と口元が緩む。キツい口調でも、暴力的行為でも。やっと、ルーシィが来てくれる。
腰を落として斜に構えると、ロキも半身になった。お互い魔法使用時も肉弾戦が主体。思えば星霊としてのロキとはまだ喧嘩したことがない。
すぅ、と呼吸を深くして集中すると、その意識を打ち破るようにして静かに声が刺さった。

「ロキ」

怒鳴るでもなく、名を呼んだだけ。
カウンタースツールに座ったまま、かろうじてこちらを向いている状態で。
歩いてこようとも、していない。

「…止めて」
「ルーシィ」
「止めなさい」
「うん」

一瞬渋い顔をしたがロキは素直に頷いた。ナツには目もくれず、カウンターの、ルーシィの隣に戻っていく。
ナツは何も言えなかった。口どころか、顔の筋肉全てが機能を見失って固まっている。

こんなことは今まで無かった。

取り残されて、彼女の背中だけをじっと見つめる。今からでも、自分の名を呼ばないだろうかと。


呼んでくれないだろうか、と。






……オレは?


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