盗賊達は躊躇いがちに武器を構え始めた。
「とにかく、敵襲なんだよな!?」
「やっちまえー!」
「引くが良い雑魚どもが!」
自称ヒーローが高らかに笑った。自信溢れるその様子に、疑問が口から零れ落ちる。
「あの人強いのかしら」
「オイラ達はもうドン引きだけどね」
ハッピーが疲れたように呟くと同時に、男が腕を振り上げる。ばばっ、とナツとルーシィ達を指差して、淀みなく声を張り上げた。
「貴様らなぞこの私の敵ではないわ!コイツらの敵だ!」
「「「えええー……」」」
「あ、敵も引いたよ」
「ていうか、あたし達の存在気付かれたじゃない!」
「お、譲ってくれんのか、お前結構イイ奴だな!」
ナツが拳に炎を纏わせて、盗賊の一部に突っ込んだ。飛ばされた何人かが、呻いて廃墟に戻ろうとする。
「ルーシィ!残党狩りは任せたぞ!」
「ったく…!行くわよ、ハッピー!」
「あいあいさー!」
ルーシィ達に向かってこようとした盗賊をナツが蹴散らしていく。倒れた盗賊達で出来上がった道を走り抜ける際、彼の楽しげな瞳と交差した。
「報酬全額、絶対だからね!」
「わかってんよ!」
び、と彼が示した親指に同様のサインを送りながら、ルーシィは鍵を一つキーケースから外した。
堪えきれないというのはこのことだろう。
「ふふふふ」
「ルーシィ、顔崩れてるよ」
「崩れてないわよ!」
すすす、とナツの陰に隠れようとしたハッピーに人差し指を向けてから、ルーシィは右手をぐ、と握った。
「今日は素晴らしい日だわ!」
「良かったね」
「仕事前と全然違ぇ…」
ナツがむぅ、と唇を尖らせる。その反応にさえも笑いかけて、ルーシィはくるり、と回った。
「夢にまで見た報酬全額!」
「お前そんな夢見てんの?痛ましいな」
「言葉のアヤよ!」
「まだ依頼人に報告前なんだから、あんまり浮かれてると悲しいことになるかもよ」
「不吉なこと言わないで!」
ハッピーの言葉に不安になって、縛り上げた盗賊達を振り返る。大部分はまだ気絶しているようで、体力的にも気力的にも動けそうにはない。
後は、依頼主に報告して回収してもらうだけだ。
ハッピーがきょろきょろと辺りを見回した。
「ヒーロー、居なくなっちゃったね」
「ホント、どこ行ったのかしら。今ならちゃんと相手してあげられるのに」
「さあなー」
男はいつの間にか居なくなっていた。気付いたのは乱闘が始まってすぐのことだったので、逃げたとするならば早い段階のはずだ。
ルーシィはぴっ、と手を振った。
「まあ良いわ。さ、報酬貰いに行きましょ!」
「おう!」
「これで今日はご飯が食べられるね、ルーシィ!」
「そこまでは困ってないわよ!?」
「ハッピー、世の中にはツケっていうのがあるんだぞ」
「そっかー」
「あんたらねえ…」
ひくりと頬は引き攣ったが、機嫌が落ちるほどではない。ルーシィは軽くスキップして、領主宅への道を急いだ。