応接室に通された三人は同時に声を上げた。

「あ!」
「おい、これ…!」
「ヒーローだ!」

壁に掛けられた肖像画――そこに描かれていたのが、ヒーローと名乗るあの男だった。

「そっか、ここで見たんだ…」

引っかかっていたものがようやく解けて、ルーシィは頷いた。ナツ達が無造作に絵に顔を寄せる。

「有名人なんだな!」
「え、でも、盗賊達は知らなかったみたいだよ」
「待ってよ、この絵…古そうよ?」

嫌な予感がして、ルーシィはよろめいた。そのすぐ後ろで、部屋の扉が開かれる。
弛んだ腹を抱えた領主が彼女にぶつかりそうになって、目を丸くした。

「どうしました?」
「あ、あの!この絵って」
「え?ああ、これは初代です」

あっさりと言って、領主は手を顎に当てた。

「伝承によれば凄腕の剣士だったそうですよ。なんでも先を見通す力を持っていたとか」

ルーシィはこくり、と喉を鳴らした。

「何年前の、話です?」
「えー…百年くらい前でしょうかね」
「ん?」
「あれ、幽霊…?」

ハッピーの震える声が、ルーシィを揺さぶる。ナツがきょとん、とした顔で首を傾げた。

「じゃあ別人じゃねえの?」
「で、でも!そっくりじゃない!あの人も未来が見えるって!」
「ああ?」
「ほら、見てたじゃっ…!あ、ううん、何も見てないわね」
「ルーシィ、真っ赤です」

ぷく、と笑いを堪えるハッピーを爪先で小突いて、ルーシィは気を取り直した。

「う、うん。そうよね。幽霊なんて居るはずないし」
「居るかもしれねえよ?」
「居ないの!やめてよ、夜トイレ行けなくなるでしょ!」
「ルーシィ、子供みたい」
「うっさい!」

自分こそ怯えていたくせに、全く調子の良い猫だ。
叫んだ勢いをそのままに、ルーシィは領主に詰め寄った。びくり、と小太りな身体が跳ねる。

「で、あの。報酬は」
「はい?」

領主は目を見開いた。

「先ほど、お仲間が受け取っていきましたよ?」
「え?」
「40代くらいの男性でしたが」
「……」

脳内のキャンバスに、自称ヒーローが描かれる。なんにせよ、実体ではあったらしい。
ぎぎぎ、とナツを振り返ると、彼はやれやれ、と肩を竦めた。

「あーあ、ハッピーの予言当たっちまったな」
「はっぴぃいいいい?」
「オイラのせい!?」

地を這うようなルーシィの唸りに、ハッピーが今度こそ青くなった。






ここで『ソイツ違うので報酬ください』とは言わないのが妖精の尻尾。
お付き合いありがとうございます!



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