「いや、あんたが正面からで良いから」
「良いのか?」

途端に、キラキラとナツの目が輝く。呆れたはずが、ルーシィの口は勝手に笑みを作った。
男ががば、と起き上がった。

「ヒーローは常に正々堂々であるべき!」

突然のことに呆気に取られた三人が見つめる中、男は剣を抜くと、空に向かって雄叫びを上げた。

「うぉおおおお!」
「…んだぁ!?」

廃墟の気配がざわめく。それに真っ直ぐ突進するように、男は丘を駆け下りていった。ナツが慌てて立ち上がる。

「先越された!」
「え、ちょっ、ナツ!?」

転びそうな勢いで、二人が煙を巻き上げる。わらわらと出て来た盗賊達を見やって、ハッピーが声を低めた。

「結構人数居るね」
「まあ…ナツなら大丈夫でしょ」
「あい」

男は廃墟の手前、ゾウガメほどの小岩に乗って、びし、と剣を水平に構えた。

「盗賊どもよ、自らの行いを後悔する時が来た!」
「なんか始まったよ」
「前口上って奴でしょ。ヒーローなんだし」
「ルーシィ、あれがヒーローだって信じてるの?」
「そういうわけじゃないけど」

ルーシィはんん、と唸った。

「なんか引っかかるのよね、あの人」

男の横に並ぶように、ナツも小岩に飛び乗った。ぴょこん、とマフラーが可愛らしい軌跡を描く。
ルーシィとハッピーは無駄に胸を張って立っている二人を横目で見ながら、そろそろと移動を開始した。

「おのおのその目に焼き付けよ!悪の花火が散る様を!この世の誰が赦そうと、悪は私が退治する!」

ぶん、と剣が舞うように弧を描いた。男が一際大きく叫ぶ。

「私は名もなき英雄、正義の使者――ヒーローだ!」

盗賊達はポカンとして男を見ていたが、その名乗り――とも言えない口上が終わるとその隣のナツに目を移した。お前は何だ?と全員が声にならない声を発する。
ナツが拳を振り上げた。

「オレは妖精の尻尾!ルーシィのヒーロー、ナツだ!」
「妖精の尻尾!?」
「ルーシィ?誰?」
「お前、知ってるか!?」
「いや、知らねえぞ!?」

今度は理解しやすい単語が出たためか、盗賊達がざわついた。
膝からくずおれたルーシィの横で、ハッピーが嬉しそうに小躍りする。

「告白キター!」
「違うでしょー!?」

熱い顔を覆った両手の指の隙間からそろそろと窺うと、ナツは自称ヒーローに負けず劣らずぴっしりと仁王立ちしていた。その表情は見えないが、体勢からすると――照れてさえいないのだろう。

なによ、あたしばっかり。

ナツにとっては深い意味などない。男の言葉を鵜呑みにしただけだ。
ルーシィは奥歯で舌を噛むと、足に力を入れて立ち上がった。気にしたら負け。ここは平然としていなければ。

「ナツは何も考えてないわよ」
「でもナツはルーシィのヒーローって、間違ってないよね」
「まだ言うの?」
「ルーシィがピンチのときはいつでも助けに行くじゃない」
「そっ、そんなの、あたしじゃなくても行くでしょ、ナツは」
「そうかなあ」
「そうなの!」

右手と右足が同時に出て、ルーシィは歩く方法を思い出そうと必死になった。今まで読んだ小説に出て来たヒーロー達の挿絵が、ナツの顔で脳裏に蘇って邪魔をする。

違うってば!

実際はハッピーの言う通りだ。ナツはルーシィの来て欲しいときに来てくれるし、欲しい言葉をくれる。
まさに、ヒーローのように。

しかしだからといってルーシィは助けられるだけのヒロインになるつもりはない。泡立った心を深呼吸で無理やり落ち着けると、ちゃり、と鍵を指先で確かめて、彼女は廃墟の裏に足を向けた。
視界の端で、マフラーが風に靡く。それがまたヒーローにふさわしく見えて、ルーシィは唇を噛んだ。






落ち着けルーシィ。ナツはルーシィの来て欲しくないときにも来るし、欲しくない言葉もくれるぞ。不足はないけど過剰だぞ。


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