パンは両手を腰に当ててふんぞり返った。
「その通りだ!俺の魔法は体感温度魔法!」
「んだそりゃ?」
「この一帯が俺の魔法の範囲だ!寒い格好、寒い語尾、寒いダジャレ!俺が寒い存在である限り、誰にも負けはしない!ぴょん!」
「語尾忘れかけてんじゃねえか」
グレイはちらりとナツとルーシィを見やった。逃げることも出来ないほど、寒さに震えている。
ぐ、と腰を落として、彼は両手を構えた。
「ご丁寧に説明ありがとよ」
「知ったところで、何もできないぴょん!」
「そりゃあどうかな!」
練った魔力を解き放つ。氷の矢が空気を裂いた。
グレイの持ち味は魔法発動までの時間の短さ。ダジャレだろうがなんだろうが、言われる前に攻撃が当たればこっちのものだ。
しかし意外な俊敏さで、パンはそれを避けた。高らかに、叫ぶ。
「奥義!」
「なにっ!?」
身を固くしたグレイに向けて、パンは尻を振った。
「魔法を使ってみまほー、なんちて!」
「ぐぁっ…!」
「ひっ!」
その効果は絶大だった。轢き潰れたような悲鳴が地の底を這いずる。
しかし。
息も絶え絶えなナツとルーシィを背に庇って、グレイはす、と目を据わらせた。
「何が奥義だよ、ビビらせんじゃねえよ」
「奥義をバカにするな!『なんちて』なんて、言う方が恥ずかし…って、なんでお前、平気なんだ!?」
「ああ?生憎、オレは寒さに強いんでな」
にやり、とグレイは悪い笑みを浮かべた。はっきりわかる。この魔法に対抗できるのは自分だけ。そして、自分こそが、この魔法の天敵だ。
ばっ、とグレイは上着を脱いだ。暑ささえ感じる。
「さあて…」
「そ、そんなバカな…この寒さは、身体に感じる寒さとは全く別物のはずだぞ!…ぴょん!」
「もう語尾要らねえだろ」
「まさかお前、そんな顔してこのギャグセンスを受け入れられるほど寒い人間なのか!?」
「……」
ぴき、とこめかみに筋が浮かぶ。グレイは振り向かないまま、問いかけた。
「おい、ナツ。聞こえてんな?」
「う…うう?」
「ルーシィの耳を塞げ」
「……?お、う」
のろのろと動く気配を背に受けて、すぅ、と息を吸う。
「さっさとお縄についてもらおうか。ルーシィはお金が絡むとおっかねえんでな」
さあどうだ、とグレイは胸を張った。いつか機会があったら言ってやろうと思っていた、秘蔵のダジャレ――渾身の作だ。
パンがさぁっと青褪めた。
「…な…なんだと……いつ、この魔法の弱点を…」
「あ?」
「く、くそ……!まさか、この俺が…!」
マントの前を閉じるようにして、パンは蹲った。
どうやら、この魔法は本人にも効くらしい。ぴきぴき、とグレイのこめかみの筋が増えた。怒りに燃えた熱い吐息が、唇を撫でる。
グレイはゆっくりとシャツを脱いだ。
「てめえ…」
「さ、寒くて、凍るど…」
「おう、しっかり凍らせてやっから」
「こ、これも効かない!?…いや、まだだ!こんなぽっと出の裸イケメンに寒さで負けて堪るかぁっ!」
パンはばっ、とマントを脱ぎ捨てた。がたがたと震えながら、グレイの後方に目をやる。
「大丈夫、大丈夫…俺はやれる!アイツらには効いてるじゃないか!」
呟くようにして、彼はきっ、とグレイを睨みつけた。