「猫は俺の魔法にきゃっと驚いたしな!」
「それで猫が寝込んだってか」
「ぎゃふっ」

パンは小さくなって、落としたマントを手繰り寄せた。それに顔を押し付けて、ぷるぷると震え出す。

「……う、ううう」
「泣くんじゃねえ」
「俺もそろそろ引退のときなのかもなあ…」
「知らねえし。つか、オレも泣きてえ」
「この魔法の後継者も見付かったし…」
「なんでオレをちらちら見る!?」

だむ、と足を踏み出すと、背後から呆れを通り越して感心したような声が投げられた。

「グレイ、お前、寒すぎだな…」
「んなわけねえだろ!?」

ぎっ、と睨んだ先のナツは、ルーシィの頭を抱えている。
その顔色が戻っていることに気付いて、グレイは目を瞬かせた。

「ナツ、お前…もう平気なのか?」
「まだちょっと寒気すっけど、大丈夫だ」
「やっぱオレのギャグは寒くねえ」
「「それはない」」

ぴたりと、一分の隙もなくナツとパンの声がハモる。
グレイは瞬時に、パンの上に氷のハンマーを落とした。

「ふぎゃ!」

油断しきっていたのか、抵抗らしい抵抗も見せずに気絶する。グレイは最大級の魔力を練りつつ、ナツを振り返った。

「よし、次はてめえだ……って、何してんだよ!?」

ナツはんん、と唸って、煩わしそうにグレイをちらりと見上げた。しかしどうでも良いとでも言うように、すぐに瞳を閉じる。
彼の腕はぎゅ、とルーシィを抱き締めていた。

「ルーシィ、あったけぇ」

猫のように、彼女の首元に擦り寄る。ルーシィは意識が朦朧としているのか、されるがままにナツの腕の中に納まっていた。

「お前らは遭難者か」
「…おい、それ『そうなんです』って言わせようとしてんのか?寒いにも程があるぞ」
「ちげえよ!」
「あー、でもルーシィあったけえ」

ぬくぬくと温泉にでも浸かったかのような顔をして、ナツがにんまりと頬を緩める。
グレイは目を眇めた。

「お前は良いとして――えー、どうでも良いとして」
「なんで言い換えたんだよ」
「ルーシィとハッピーは大丈夫なのか?」
「オレがこうしてればあったかいだろ。な?」

至近距離での問いかけが効いたか、ルーシィの固く閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がる。
潤んだ瞳が、ナツを映した。

「な、つ…」

儚く、掠れたようなそれに、ナツの頭が小さく揺れた。
金髪がふわりと靡く。人肌を求めるように、ルーシィがぽす、とマフラーの上に落ちた。

「寒い…」

縋る声を、反射のように抱きとめて――ナツは次の瞬間、ぱっとルーシィを放した。

「あちっ、あちぃ!」

風を当てるようにはたはたと手を振ってから、ナツはのた打ち回った。熱に強いはずのその頬が、火照ったように赤くなる。

「ううう、今度はなんだよ、これ!」
「おい?」
「熱い!茹だる!暑い!」

グレイは眉を寄せた。
恐らく、魔法はまだ切れていない。寒さで寒くなる、体感温度魔法ということは。

「……熱いと暑くなる、のか」

考えてみれば、確かに暑さを感じていたような気がする。怒りの感情、気合――ついうっかり脱衣で発散してしまったため、ナツほどの状態にはならなかったが。






ついうっかりとな。


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