あったかいな





グレイがその場に追いついたときには、ナツとルーシィは蹲っていた。

「は…?おい、大丈夫か!?」

見たところ、怪我をしている様子はない。しかし顔色は真っ青で、がくがくと震えている。
ハッピーはルーシィの胸に顔を押し付けるようにして、目を閉じていた。

「おい、ナツ!ルーシィ!ハッピー!」

呼びかけにゆるり、と視線が動く。がちがちと歯を鳴らして、ナツが口を開いた。

「グレイ…」
「何があった?」
「気を、付けろ……アイツの、魔法…」

強気で無駄に熱いはずの瞳は、今は虚ろで光がない。聞き取りにくいそれに耳を傾けていると、がさり、と後方で何かが動く音がした。

「誰だ!」
「ふん、飛んで火にいる妖精どもだな」

悠然と、妙に気配の薄い男が一人立っている。グレイはその姿を目に入れて、眉間に思い切り皺を刻んだ。

「お前がパンって奴か」

男は長いマントの下に、フリルの付いた白いワンピースを着用していた。ちりちりと生えた脛毛が、目に毒としか言い様の無い有様をより一層引き立てている。
この男――パンという名の魔導士を捕まえることが、今回の仕事。依頼書通りの、変態的な格好だ。
身構えたグレイに、パンは余裕を見せ付けるかのように両手を広げた。

「そうだぴょん」
「……あ?」

するりと言い放たれたそれに、グレイは反応しきれなかった。さっきはそんな口調じゃなかったはず。

「お前、何言ってんだ?」

パンは何も言わずにやりと口角を上げた。背後のナツが苦しそうに呻く。

「寒ぃ…」
「寒い?」

こっちもこっちで意味がわからない。寒さに強いというわけではないが、ナツは火竜の二つ名よろしく、魔力は炎に変換できる。体温の調節など、簡単なはずだ。

「魔力封じか?」

ナツがこの様になるのなら、他にも何かあるに違いない。いつでも防御できるように複数の戦闘パターンを頭に広げながら、グレイはざり、と片足を前に出した。
パンはナツを指差した。

「ソイツ、あの有名な火竜だよなあ?無様なモンだぴょん!」
「う……」

その声を睨みつけるように、ナツがぐ、と膝に力を入れた。よろよろと、立ち上がる。

「あんま、調子、乗ってんじゃ、ねえぞ…!」

パンは片手を軽く振った。

「調子良くって超ショック」
「がっ」
「お、おい!?」

ばたん、とナツが倒れる。もぞもぞと丸くなって、小刻みに打ち震えた。

「寒ぃ……ううう」
「見たか、俺の無敵魔法!」
「何しやがった!?」

グレイはとりあえずナツの首根っこを掴んで後退った。ルーシィの横に落として、パンに向き直る。攻撃してくる様子はない。
ナツが血色の失せた顔を上げた。

「アイツの、ダジャレ、聞くな」
「あ?ダジャレ?」
「寒い、ダジャレ、寒く、なる」

よく見ると、ハッピーはルーシィの腕の中で耳を塞いでいた。






冷やし空気、始めました。


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