「ルーシィ、お勉強ですか?」
「んー、たまにはね。ギルドの書庫から借りてきたのよ」
ルーシィが読んでいる書物は封印に関してのもの。なぜか気になって手に取ってしまった古いそれは、ページが外れかかってぼろぼろの体だった。内容は初心者向けかと思いきや中上級者向けで、ルーシィは頭の中で少しずつ整理しながら読み進める。
「ジュビア、そんなの読んだら眠くなっちゃいそうです」
横から覗き込んできたジュビアが感心したように声を上げた。
「ジュビアは本とか読まないの?」
「読みますけど…」
「あ、わかった。恋愛小説でしょ」
ジュビン、と赤くなった彼女を見て、可愛いなぁ、と思う。ルーシィは恋愛小説も読むが、どちらかというと冒険物を好んで読むことが多い。
がたん。
物音に振り返るとナツがリサーナを抱えて顔面蒼白になっている。そのただならぬ状況に仲間達が集まってきた。
「リサーナ!?」
「突然倒れたんだ」
ハッピーがナツに代わって説明した。こっちは青い顔を白くさせて、涙目になっている。
「と、とにかく救護室に」
誰かが言ってナツがリサーナを抱え上げた。扉の向こうに入っていく後姿を見て、ルーシィはずきり、と頭が痛むのを感じた。リサーナ。倒れた。
ミラが慌てて救護室に向かう。
一連の流れを見送って、ルーシィは椅子から立ち上がった。さすがに中まで入れないので、扉の前で待つ。他の連中も心配そうに扉の前に立ちすくんでいた。
がちゃり、と扉が開いてエルフマンとナツが出てくる。
「ポーリュシカさん、呼んでくる」
エルフマンがギルドから走って出て行った。それを見送ったナツは暗い表情で救護室の前から動かない。
「ルーシィ」
ジュビアがルーシィを支えるように、後ろから両手を肩に置いてきた。振り返ると心配そうな瞳。ルーシィは軽く微笑むと、右手をその上に重ねた。
何かを思い出しそうで、思い出せない。ルーシィは痛む頭を極力動かさないように、ポーリュシカを待った。
「魔力が少しずつ逃げているね」
やってきたポーリュシカはリサーナを診察した後、救護室から出てそう言った。
「一時的に魔力を封じ込める薬を飲んで、様子を見てみるしかないよ」
「そうか…」
記憶喪失が関係しているのかどうかはわからない、とのことだった。
「それで、薬なんだけどね。材料は新鮮なものを使わなきゃならないんだ。うちでは作ってない植物だから採ってこれる奴を集めておくれ」
「エルザ」
「はい、マスター。どこのどういう植物ですか?ポーリュシカさん」
エルザが場所を聞いている間、グレイはルーシィの肩に手を置いた。
「遠そうだな、泊まりになる。すぐ行くぞ」
「うん」
(そんなので治るはずがないわ)
ぴたり。ルーシィは自分の考えに驚いて足を止めた。なんだ?今自分は何を考えた?
「ルーシィ?どうしたよ?」
眉をひそめるルーシィに気付いて、グレイが訝しげに見る。
「あ、ううん。なんでも、ない」
ルーシィは救護室に目をやった。ナツはまだ、出て来ない。