『リサーナが倒れたわ』

夢の中、ルーシィはウルティアに問いかける。

『どういうこと?何か知っているんでしょ?』
『魂が抜けかかっているのよ。同じ人間の魂と肉体じゃあないんだもの』

興味なさげに、しかし丁寧な口調でウルティアは言う。ルーシィに読み聞かせるように。

『このまま放っておけば、分離してまた死ぬことになるわね』
『っ…!』

ルーシィは息を飲む。

『初めから知ってたのね…!』

もうタイムリミットが近いということ。ルーシィが決断しなければならない。リサーナを完全に復活させるか、それとも…。

『そろそろ、お返事が聞きたいわ』

ウルティアが転がるような声を出した。この女は知っている。ナツに対するルーシィの気持ちを。リサーナに対するナツの気持ちを。ルーシィが妖精の尻尾の魔導士としても、一人の女性としても――リサーナを見殺しに出来ないことを。
ルーシィは今日読んだばかりの書物の記述を思い出す。

(封印というものは許容量以上の魔力を注ぎ込んだ場合、一時的に操ることが可能…)

星霊王の魔力なら余裕で許容量以上だろう。ルーシィが星霊王を本当に呼び出せるのであれば。ゼレフの封印を操ることが出来るのであれば。
一度解いてからまた封印をすることが可能ではないだろうか。それを盾に、ゼレフに言う事を聞かせられる?リサーナを救うことができる?

『…わかったわ。明日…結論を出す』

ウルティアは返事を知っているかのようにいいわよ、と軽く答えた。




「いいか、ポーリュシカさんの話ではこの洞窟の奥で発見されることが多いらしい。決して植物を荒らすようなマネはしてくれるなよ。特にナツ!炎の扱いには厳重に注意しろ!」

意気込むエルザに、ナツが若干ふてくされた。ルーシィはこのチームで出掛けるのが久しぶりのように感じた。実際前回から2週間ほど経ってはいたが、ルーシィにとってはそれ以上の月日が流れたように感じられた。

「モンスターとかいるわけじゃあないんだろ?」
「いるとは聞いていないが、お前達は敵がいなくても魔法をじゃれあいで使うだろう」

エルザの冷えた視線にナツとグレイの背筋が伸びた。ルーシィはハッピーを抱えてくすり、と笑う。いつものチームだ。
最近はリサーナのことで勝手にナツから距離を置いている。二人が目に入ると胸が苦しかったからだ。でもここにいるのはルーシィのよく知るナツで。ルーシィは目を細めた。
ナツがリサーナを想っているのだから自分は応援しなければならない。わかってはいるのだが、理解だけで気持ちは動いてくれなかった。ハッピーがルーシィをちらりと見上げる。

「ナツ、火くれ」

炎を手のひらに灯すナツから火種をもらい、グレイとルーシィはカンテラに火を入れた。分かれて探さなければならなくなった場合、必要不可欠に思えたからだが、すぐにその心配は除かれた。

「わぁ、綺麗!」

洞窟には、壁や天井に光を発する植物がびっしりと生えていた。暗い洞窟には自生の為に光源を自らの体内で生成する植物がある、とは知っていたが。ルーシィは本で読んだ世界に、きらきらと瞳を輝かせた。

「ルーシィ、転ぶよ」
「そうだぞ、お前下見て歩けよ」

水を差されてむぅ、と口を尖らせると、グレイが手を差し出してきた。

「お手をどうぞ、お姫様」
「わ、ほーら、グレイはこんなに優しいのに!」
「お手、の間違いだろ」
「あたしは犬かっ!?」
「オイラ犬苦手だよー」
「はい、おかわりは、お姫様」
「ち〜が〜う〜!」

悪乗りし始めた奴らに、ルーシィはだむだむと地団駄を踏んだ。いつも通り。それでもルーシィはじわじわと不安に蝕まれる。この楽しさが仮初めであることを、知っている。

「進むぞ」

エルザが先導して洞窟を歩く。分岐はあったがほとんど一本道であり、他に変わった植物は見られなかった。

「どういうのなんだ?」

ナツが辺りを見回しながら問う。

「足首くらいまでの大きさで、親指ほどの葉を3枚持つ草らしい。見ればすぐにわかる、と…」

エルザの声が途中で止まった。

「エルザ?」

視線を追うと、涼しげな面差しの黒髪女性が、行き止まりで佇んでいた。






グレイは紳士…だったら良いのにな。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -