ぼくのミックスジュース





ちゅぅ、と吸い上げられたジュースがストローを黄色く染めた。グレイの喉仏がそれを受け入れて上下する。
小気味良いその様子を、ルーシィはぼんやりと眺めていた。

「ん?」
「あ、ごめん。ぼうっとしてた」

グレイの視線を散らすように、ぱたぱたと手を振る。
ジューススタンドで購入した自分のコップは、もう空になっている。期間限定のトロピカルジュースは思った以上に美味で、喉が渇いていたというわけでもないのに一気に飲んでしまった。
彼が飲んでいるのは店一番人気のミックスジュース。色こそルーシィが飲んだものとよく似ているが、看板によると入っている材料はかなり違うようだ。
グレイが首を小さく傾げた。

「飲むか?」
「え」

つい、と目の前で揺らすように持ち上げられたそれを、ルーシィは凝視した。

「だっ、え、あ……」

間接キスになるわよね?

これくらい普通かもしれない。現に、グレイの表情に照れは見えない。仲間なら回し飲みなど平気なのだろう。ナツも、ルーシィの飲み物を勝手に飲むことがある。
しかし彼女の中の乙女はそれを躊躇した。自分の飲み物を飲まれるのと、異性の飲み物に口を付けるのとでは大きく違う。
焦った彼女に気付いたか、グレイが目を丸くした。

「なに意識してんだよ」
「しっ、してないっ」
「お前、ホント純情だよな」
「してないってば!」
「飲むか?」
「っ…」

今度はからかうような笑みが浮かぶ。怯んだルーシィを満足そうに見やって、グレイはジュースを引き戻した。

「冗談だよ」
「…グレイって時々凄く意地悪よね」
「じゃあ飲むか?」
「のっ、飲まない」

ぷ、とグレイが吹き出す。こうなったら飲んでやろうか、とルーシィが頬を膨らませた時、彼の手の中からコップが忽然と消えた。

「いただき!」
「あ?」

グレイはルーシィの横に出現した桜色と、何も無くなった手のひらを何度か見比べた。その隙を突くように、ストローがぱくりと咥えられる。

「お、うめぇ」
「てめえ、勝手に!」

ルーシィははぁ、と溜め息を吐いた。美味そうな火の匂いがする、と走って行ったかと思えば、唐突に戻ってくる。ナツは通常運転で相変わらず落ち着きがない。二人が取っ組み合いの喧嘩になるのも、時間の問題と思えた。
彼女の予想そのままに、グレイがナツに掴みかかった。ばっ、と空中に舞った上着がルーシィの上に落ちてくる。

「ちょ…」

被せられたそれを掴んで剥がすと、グレイはシャツも彼女に向けて放り投げていた。






こいつをぐぐっと飲み干せば。


次へ 戻る
main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -