『どう?リサーナの様子は』
『元気にしてるわよ』

ウルティアのからかうような声音にルーシィは硬く答えた。もう何日目だろうか。やはり朝になると夢のことは忘れてしまっている。

『ねぇ、ここで行くって決めたとしても、起きているあたしは何も覚えてないわよ』
『ふふ、そうね。でも大丈夫。その時には思い出せるわ。今は駄目。他の連中に相談したら、リサーナを犠牲にしてもルーシィを引き渡しはしないでしょう?ゼレフの復活がかかっているんだものね』
『そうかしら?』
『あら?随分自信が無くなっているのね』

くっ、とルーシィは唇を噛んだ。その通りだった。昼間はただギルドの幸せそうな様子に心を揺さぶられるだけだったが、夢の中では違う。あの幸福は仮初めのものだとわかっている。しかし、リサーナが死者だとしても、妖精の尻尾なら犠牲になどしない。仮初めだろうが何だろうが、あの空気を進んで壊すはずがない。ましてリサーナはギルドでも古株だ。入って日の浅いルーシィとは比べ物にならないほど、馴染む。
自信が、無かった。リサーナの為ならギルドはルーシィを差し出すのではないか。きっと、ルーシィが復活に協力してから、ゼレフを全力で倒す。そういう結論を出しそうだ。だとすれば。

(行くべきなのかしら)

ルーシィは悩む。これを誰かに話すことができれば、相談さえできれば。考えて、思い浮かんだ人物に頭を振った。彼から行け、と言われたなら、リサーナの為だ、と言われたなら――ルーシィは壊れてしまいそうだった。
ウルティアは声を出さずに笑った。




何かおかしい。何か足りない?
ナツはリサーナに最近のギルドの様子を説きながら、内心首を傾げた。リサーナがいる。笑っている。ここ2年間、望んでいたに違いない、風景。
リサーナはナツにとって小さい頃から一緒の、大切な仲間だった。楽しくて嬉しくて幸せしかないような、そんな初恋。美化していたわけではないことは、ここ数日のナツの気持ちが物語っていた。やっぱり楽しい。嬉しい。幸せ。でも何故か、ナツはどこか物足りない気持ちでいた。
何か大事なものを忘れているような。大切なものを見落としているような。
胸をすくような不安が、時々訪れる。

「ナツ?」

ファイアジュースを飲みながらその正体を探っていると、リサーナが不思議そうに覗き込んできた。

「何か他の女のこと考えてなかった?」

くりん、と悪戯っぽくナツを見つめる。その表情にナツはどきり、とした。そうだ、リサーナは昔からこうやってナツをからかう。その度にナツは上手く返答できなくてもごもごするばかりだった。

「んな、な、何言って…てか近…」

近い、と言おうとして、脳内で自分の声じゃない音声が再生された。

『近いってば!』

ルーシィがよくナツに言う、怒ったような声。そういえばしばらく聞いていない気がする。
今度こそ上の空になったナツに、リサーナが片眉を上げた。

「オイラ、お腹空いたー」

ハッピーが声を上げて二人を遮った。ナツは食事の内容を考える振りをして、カウンターのルーシィを盗み見た。

「オイラお魚ー」
「チーズリゾットにしようかなぁ」

二人の注文が決まったところで、ナツは席を立った。

「ナツ?」
「ん、注文してくる」

言ってカウンターに向かう。気になり始めたらどうしてもルーシィの声が聞きたくなった。忙しそうに立ち回るミラを捉まえて三人分を注文し、ナツはパスタをつついているルーシィに視線を向ける。

「……」

何と言って声をかけようか。普段気にしたことなどないが、今日に限って話題を探らねばならない雰囲気を感じた。ルーシィはぼんやりと食事をしているだけのようだが、話しかけて欲しくない、と言わんばかりに皿だけに集中している。ナツはなんとなく緊張した。

「ルーシィ」

結局名前を呼ぶだけにとどめる。視線がちらり、とこちらを向いた。そこで初めて焦点があったように、ルーシィの目に光が宿る。

「ん、何?」

嚥下して、ルーシィが答える。その様子になんだか胸騒ぎを覚えた。

「お前大丈夫か?」
「え、何が?」

ルーシィの顔色はやっぱりあまり良くない。かと言ってそれ以外には悪いところはなさそうだ。ジュビアから寝不足らしいとは聞いていたが、隈は見当たらない。
急に心配になってきた。
ルーシィの前髪を手でかきあげて、額を合わせる。熱はない。至近距離でルーシィと目が合った。瞳にどきり、とする。

あ、言われる。

思った瞬間、ルーシィがふい、と離れた。

「…近いわよ」

ナツから視線を外して言われた言葉は、常よりもずっと落ち着いていた。ナツは呆然とルーシィを見返す。怒ってくれると思ったのに。これじゃあ拒絶されてるみたいじゃあ――。

「はい、ファイアピカタとファイアスープ。他のは席で待ってて、持って行ってあげる」

ミラがお盆を差し出した。言われるまま受け取って、ナツは挨拶もそこそこにルーシィに背中を向けた。
不安が大きくなるようだった。柄になく震えた手に皿とカップがカチャリと音を立てた。






意外と料理って考え付かないもんですね。


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