ナツは右足を一歩前に出した。両手を口に当てて、すう、と息を吸い込む。

「火竜の……っ」
「あっ!?」

踏み込みすぎたか、足がキノコを一つ下敷きにした。ぽふ、とこれまたきついピンク色の胞子が拡散する。

――予想外に、広範囲に。

目の前を染める霞に驚いて、ナツは咆哮の為の息を吐き出した。慌てて再度、吸い込み直す。

「…咆哮!」

ごおっ、と炎が地面を舐める。木を何本か巻き込んで、キノコは焦土と化した。
しかしそれを確認するよりも、もっと気になることがある。ナツは恐る恐る、後ろを振り返った。

「オレ、今吸い込んだか?」
「そう、見えたけど……」

心配そうな顔をしたルーシィと、目が合う。数秒後、彼女ははっとしたように両手を上げた。

「こ、こっち見ない……ん?」
「あれ?」

ナツは首を傾げた。目の前にはルーシィが居る。しかし、自分には何の変化もない。

「平気なの?なんだ……」
「なんだよ、その反応」

ほっとしたのだろうが、残念そうにも見える。首筋がむず痒いように感じて、ナツはマフラーを緩めた。

「べ、別にっ」

ルーシィが慌てた様子で顎を引いた。ブーツの先で、落ち着かなげに地面を削る。
その土の色に思い出して、ナツはキノコが生えていた一帯を見やった。ピンク色は影も形もない。

「依頼達成だな」
「ここだけなのかしら」
「あー、一応調べねえとダメか」

空中へ逃げていたハッピーが、ばさりと降りてきた。二人の間に着地して、見上げてくる。

「ナツ、なんともないの?」
「おう、何も変わんねぇぞ」

胞子を吸い込んでいなかったか、もしくは吹いた炎で燃えて効果がなかったか。
手を握ったり開いたりして身体の不調がないことを確かめていると、ハッピーが軽い調子で爆弾を投下した。

「そっか、ナツは元からルーシィのこと好きだから」
「なっ!?」
「んなわけっ……!」

思わずルーシィに目をやると、ばちりと視線が合った。ぼぼぼ、と真っ赤に染まっていく。

「あ、いあ、そのっ!」

熱が顔に集中する。
自分がルーシィに負けないくらい赤いことを自覚して、ナツは弁解しようと口を開いた。しかし頭は真っ白で、何も出てこない。
否定も言い訳も。ハッピーへの文句も何もかも。

「っ……」

ルーシィの唇が何かを言いかける――その瞬間、ナツの身体は動いた。
脳を掠めた行動を、それしかないと判断したのは果たして自分だったのだろうか。反射的とも言える速さで、華奢な腕を引き寄せる。

「え。ナ、ナツ?」
「ほ、ほら、これで良いんだろっ!?」

勢いのまま飛び込んできたルーシィを、ナツはしっかりと抱き締めた。






抱きつきたくなるほど。


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