「ルーシィ?ルーシィ、大丈夫ですか?」
「う…うう…ん…」
朝の光が差し込む。ルーシィは睡眠の足りない頭で、ぼんやりと布団の上に投げ出された自分の両手を見た。
まただ。また夢を――覚えていないが夢を見た。
「起きる直前ですけど、魘されてましたよ」
ジュビアが心配そうな顔で覗き込む。
「あー…なんか夢でも見たのかな」
これ以上心配をかけても仕方がない。ルーシィはとぼけてベッドから起き上がった。
ナツとリサーナは隣に座って笑い合っている。テーブルの上のハッピーがそれにたまに茶々を入れて、また笑う。ルーシィはきりり、と胸が痛くなった。痛みの原因はわかっている。
「リサーナ、ちょっとこっち来いよ」
エルフマンに呼ばれてリサーナが席を立った。つまらなそうな顔でその背中を見送ったナツが、カウンターのルーシィを見つけて寄って来た。
「よ、ルーシィ。昨日早く帰ったけど大丈夫なのか?」
気にしてくれた。ルーシィはナツのマフラーを見て答える。
「うん、ごめんね。せっかくのお祝いだったのに、先に帰ったりなんかして」
「いや、それは良いんだけどよ。…なんか顔色悪くねぇか?」
「ん、大したことはないから」
「あー…あの日か?」
「言い直すまで待ってあげるわ。さーん、にー、」
「ごめんなさい」
ん、と頷いてルーシィはナツの肩越しにリサーナを見やった。よく笑う、綺麗な娘。ミラよりも快活な印象を与えるその表情はくるくると楽しそうに周りに溶け込んでいた。
「良い娘、だね」
ルーシィはぽつりと呟いた。ナツがルーシィの視線を追って、ニッと笑った。
「だろ。…オレ、さ」
頬を染めてナツがルーシィに囁く。
「初恋、なんだ」
ああ。
そのあまりに幸せそうな表情に、ルーシィは釣られて微笑んだ。きちんと笑えていたかはわからないが。
「オレ、リサーナが戻ってきて、すっげぇ嬉しい」
「…うん、良かったね」
今度はちゃんと笑えたと思う。ルーシィはナツが幸せそうに笑うのが好きだから。この笑顔が無くなるのが、嫌だから。胸だけが酷く痛みを訴えるが、ルーシィはこの笑顔を目に焼き付けよう、と思った。
「ナツー」
「おう」
リサーナの呼び声に応じて、ナツが足を踏み出した。二三歩小走りしたところで、くるり、と振り向く。
「……」
「何?」
ナツはきょとん、とルーシィを不思議そうに見るだけで、何も言わない。促してみると、いや、と言って頭を振った。今度は振り返らずにリサーナに向かう。
ジュビアとガジルが心配そうに見ていたことに気付いてはいたが、知らない振りをした。