ジュビアはギルドの出入り口を睨んで唇を噛んだ。今朝はせっかくグレイと同席出来たのに、横から掻っ攫われてしまった。まだ満足に話もできていない。
しかし悔しいと感じる反面、珍しく憔悴した様子の桜色も気にかかる。ナツを迷惑に思ったり心配したり優しいグレイに惚れ直したりナツが羨ましくなったり、ジュビアの内面は今日もさざ波立っていた。
「ねね、ジュビア?」
「はい?」
声をかけてくると同時に、隣に――グレイが座っていたのとは逆側に――レビィが滑り込んでくる。彼女はキラキラと瞳を輝かせていた。
「今さ、ナツ、ルーちゃんには聞かれたくないって言わなかった?」
確かに、そう言うのが聞こえた。ジュビアは思い出して頷く。
「ええ、随分思い詰めた表情で……」
そこまで言って、レビィの期待するような眼差しに気付いた。同時に、ジュビアの乙女回路が唸りを上げる。
元気ない→悩み→恋。
『ルーシィに、聞かれたくねえ』――
結論が電飾付きで脳内に閃く。
「ナツさん、とうとう?」
「ジュビアもそう思う?」
きゃあきゃあとレビィは身をくねらせた。ジュビアは熱くなってきた頬を両手で支える。
「気付いたんですね?」
「気付いちゃったんだね?」
心臓が早鐘を打っている。自分のことではないにしても、身近でリアルな、しかも男性側の恋話となるとテンションが上がる。ジュビアはレビィと身を寄せ合った。
「やっぱりそうだよね。ナツって全身全霊でルーちゃん大好き!って感じだもん」
「今まで進展してないのが不思議なくらいでしたね」
正直さっきまで確信を得ていたわけではなかったが、ジュビアはレビィに同意した。ナツはルーシィと、同じチームの仲間という以上に距離を詰めている。しかしそれは彼の持ち前の無邪気さから恋愛感情によるものだとは断定できなかった。そうだろうとは思うものの、肉親への情愛に似ているようにも、見えなくはない。しかしことこうなってくると、もう疑いようはなかった。
ナツ・ドラグニルは、ルーシィ・ハートフィリアに、惚れている。そして、彼は自分の想いが恋であることに気付いたのだ。
レビィはにやにやと口元を緩ませながら、出入り口にちらりと目を向けた。
「グレイに何相談してんのかな」
「やはり告白の仕方でしょうか」
「うわ、いきなり?」
「ナツさんですから」
直情的で短絡思考。ジュビアがグレイを通して見るナツは、概ねそんな人物だった。グレイも似たようなところはあるが、目に恋のフィルターがかかっている彼女がそれに気付くことはない。
ジュビアの分析にレビィも異論はないようで、くすくすと笑った。
「グレイのアドバイスってどんなんだろ?」
「それはもう、素晴らしいに決まってます!グレイ様ですもの!」
ジュビアは拳を握った。
脳内のグレイが薔薇色のオーラを纏う。大きくて力強く、それでいて繊細な指先がジュビアの頬を撫で、漆黒の厳格さを持ちつつも柔らかい瞳が彼女を釘付けにする。そして彼は反応を楽しむように勿体ぶって告げるのだ。好きだ、ジュビア。オレにはもう、お前しか、見えない――。
「じゅ、ジュビアを、お嫁さんにしてくださいぃぃ〜」
「ちょ、ジュビア、妄想と会話しないでよ…」
レビィが彼女を現実に引き戻すように、ぱたぱたと手を振る。幸福感に麻痺した頭でぼんやりと見返して、ジュビアはハタリ、と気が付いた。
「グレイ様プロデュースの告白を、ルーシィが受ける……!?」
ナツに代わっただけで、中身はグレイのようなものではないか。それは羨ましい。いっそ憎らしいほどに。
嫉妬の炎が揺らめきそうになったジュビアの視界に、渦中の人物が不思議そうな顔をして入ってきた。