おわかれのうた





「いいじゃん、行こうよ」

馴れ馴れしく肩に触れてきたその手から、ルーシィは身を捩るようにして逃げた。あまりあからさまにならないように、気を付けて。

「悪いけど、そんな時間ないんだー」

こうして声をかけられるのは嫌なことではない。煩わしいとは思うものの、自分の魅力を再確認するようで気分は良い。自意識過剰だの自信過剰だの言ってくれる奴らに、見せてやりたいほどだ。
さりげなく視線を走らせるも、ナツとハッピーは戻ってきていなかった。
仕事も終わって、帰りの列車までの少しの時間、することに決めた観光。彼らはルーシィに「ちょっとその辺見てろ」と言い残してどこかに消えていった。恐らく悪戯グッズの調達だろう。頭が痛い。
立ち並ぶ店先を眺めながら歩く彼女に、ナンパ男はしつこく食い下がってきた。

「えー?予定があるの?」
「予定っていうか、帰る」
「じゃあ、帰る時間、遅らせなよ」
「ダメ」
「えー、なんでー?いいじゃん」

夜遊びだって悪くないよ、みんなしてることじゃない、と悪魔のように男は言った。今はまだ夕方。夜まで解放しない、というつもりが透けて見える。
ルーシィは面倒になってきた。ナツ達が戻ってくるまで耐えられそうにない。

「連れが居るから」
「えー?」

男は抑揚のない「えー?」を繰り返した。

「居ないじゃん」
「ちょっと別行動してるだけ!すぐ戻ってくるわよ」
「えー、友達?君みたいな可愛い子の友達なら、きっとレベル高いんだろうなあ」

男はタバコ臭い息を吐きかけるように、ルーシィに顔を近付けてきた。

「紹介してよ」
「残念。彼氏、よ」

来るのはナツとは言え一応男だ。知らない人から見ればその真偽はわかるまい。ぼろが出る前にささっと逃げてしまえば大丈夫だろう、と算段を立てて、ルーシィは顎を上げた。
男の態度は一変した。

「なんだよ、早く言えよな。ビッチ!」

言葉と共に唾までルーシィの足元に吐き捨てる。彼女の中の何かがぷつりと音を立てた。

「開け、子犬座の扉!」
「へっ、ま、魔導士っ!?……て、何、その白いの」
「ていっ!プルーアタック!」
「わああ!?」

走り出した男の背中目掛けて、プルーを投げつける。しかしその鼻が男に刺さる前に、横から出てきた手がプルーを掴まえた。

「ナツ」
「ひっ、ひぃいい…!」

まろぶように逃げていく男を見送って、ナツはプルーを肩に乗せた。

「お前、怪我させるつもりかよ」
「だっ、だってっ、アイツが」
「プルーに」
「あ、うん……そうね、ごめん、プルー」
「プーン」

プルーはナツの髪にしがみついて、ぷるぷると頭を振った。
足元ではハッピーがナツの足に隠れるようにしてこちらを見上げている。そこでふと、違和感を覚えた。

おかしい。ナツと目が合わない。






壁に耳有りですのよ


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