「――は?」
瞬きをしても、そこに居るのはナツだった。空耳かと思う間もなく、ナツの顔をした彼はもう一度押してくる。
「好きって、言ってくれよ」
ぱか、と口が開く。それを閉じて、また、ぱかり。
こく、と喉を鳴らして、ようやく、ルーシィは声をどもらせた。
「な、ななな、なんで」
当然の疑問にも、ナツは答えてくれなかった。ただただ、ルーシィに必死な視線を向けてくる。
「頼む」
「だ、だから、その、なんで」
「オレからも頼む」
「あんたしか頼んでないわよね!?」
これはどういう意味なのか。助けを求めてハッピーを見やるも、彼は目を丸くしているだけだった。その視線を追ってナツに目を戻し、ルーシィは息を飲む。
さっきよりも、近い。
「言ってくれ」
ナツはルーシィにぐいぐいと詰め寄ってきた。狭い座席の間で、膝がぶつかる。
逃げ場を封じられたように感じて、ルーシィは身を竦ませた。
「そんなこと、だって、あたし、」
「ルーシィ、頼む。冥土の土産に」
もごもごと言葉に詰まったルーシィを、ナツはきっぱりと促した。揺るぎないいつもの瞳が、言うまで諦めない、と彼女に宣言している。
冥土の土産――死ぬ前に。
その言葉を、どうしても聞きたい、と?
「それって…」
あたしのこと、好きなの?
訊いてみたい。
ルーシィにとって、ナツは一番近い異性だった。近過ぎると言っても良い。普段意識することはなく、自分が彼にそういう感情を持っているかなど、考えたこともない。
しかし、そういった関係を彼が望むのなら、全く受け入れないわけではない――。
ルーシィは恐る恐る、彼の真意を探った。
「す……き…?」
それを口にした瞬間、脳が全てを遮断した。世界にナツと二人で取り残されたように、周りが白くなる。
彼はぴくり、と揺れ動いた。
「っ…い、」
「ぇ?」
「今の、最後上がった。疑問形じゃ、ダメだから」
ナツの瞳が熱く光った。
「もっかい」
こく、と喉が鳴ったのは、自分のようにも、ナツのようにも思えた。
押し切られたせいか、それとも別の理由かは、ルーシィ自身にもわからなかった。彼女の意識と離れたところで、ぽつりと、呟きが口から逃げていく。
「…好き」
「…もっかい」
「ナツのこと、好き……」
言葉が熱を持つ。混じった吐息が焼けるように感じて、ルーシィは震えた。どきどきと心臓が脈打つ。