その日はもちろん宴となった。
リサーナと一緒に来たのは、それまで彼女を世話していた女性とのことだった。リサーナは2年前の仕事で死ぬ目に遭ったが、偶然通りがかった女性に拾われ、生死の境を彷徨ってそれまでの記憶を失い、女性の妹として生きてきたそうだ。そして先日記憶が戻ったのだが、今度はその2年間の記憶が失われたらしい。女性はにこり、と笑ってリサーナの頭を撫でた。本当の居場所が見つかって良かった、と。引き止めたが女性は宴が始まる前に帰ってしまった。騒ぐと寂しくなるから、と言って。
ルーシィはカウンターでジュビア、ガジルと話していた。二人ともどうしてかルーシィを気遣うようにべったりと離れない。顔には出さないが元気付けようとしてくれているようだった。
ルーシィ自身は死んだと思われていた仲間が戻ってきたのだから嬉しいに違いなかった。こうして宴も開き、みんなの熱気が伝わっている。喜んでいるのがわかる。面識はなくともルーシィも嬉しい。はずだ。
ルーシィは胸にちくり、と刺さる棘を見ない振りをした。騒ぎの中心には、リサーナと、ナツがいる。
口元を無理やり笑みの形に引き上げて、ルーシィはそれを見た。二人とも嬉しそうに、楽しそうにお互いを見ては笑っている。あるべき姿にようやく戻った、と言わんばかりの自然さに、ルーシィは口元を固定したまま目を閉じた。

「ルーシィ、顔色悪いですよ」

ジュビアが低い声を出した。注意を己に向けるように。

「そうだな。今日は帰れよ。寝不足なんだろ」
「なんでそれ知ってんのよ」
「聞こえたんだよ」
「ルーシィ、ガジル君にはプライベートは無いと思った方がいいですよ」
「おい、オレが変態みてぇじゃねぇかよ!」

やり取りにくすり、と笑うと、ジュビアがルーシィの腕を取って立ち上がらせる。

「ほら、帰りましょう!ジュビア送って行きますから!」
「へ?いや、でもね?」
「でももガジル君もないですよ!さあ!」
「オレ関係ねぇだろ!?」

ぐいぐいと引っ張るジュビアに任せて、ルーシィは宴を後に家路に着いた。そのままジュビアを帰らせるのもなんだから、とお茶に誘うと、彼女は喜んで応じ――結局そのまま家に泊めることになった。同じベッドに並んで入って、ルーシィはジュビアの寝顔をちらりと見る。
ジュビアはグレイに恋をしている。オープンで積極的で。ルーシィはそんな恋ができる彼女が羨ましかった。目を閉じてゆっくり息をする。思い出さないように。何も考えないように。大丈夫、ルーシィ、あんたは強いでしょ。

「……っ」

ジュビアがルーシィの手を握った。温かくて優しくて――ルーシィはそっと握り返した。




灰色の夢の中、前後左右、上下すらもわからない空間にルーシィは漂う。そう、この夢は…。

『こんばんは、ルーシィ』

脳に直接響くような声にルーシィは思い出す。

『ウルティア…』

どうしてこんな夢を忘れていたんだろう。ルーシィはもう6日連続でウルティアと言う女の夢を見ている。いや。

(夢なんかじゃ、ない)

そうだ、1日目、ウルティアはルーシィに夢を使って語りかけているのだと言っていた。

『どう?悪魔の心臓に来る気にはなった?』
『なるわけないでしょ!』

このやり取りも6日連続だ。

『あなたの星霊魔導士としての力が必要なのよ…』

反応がわかっていたようにくすり、と笑う。ルーシィは唇を噛んだ。
魔導士ゼレフを復活させる為に、星霊王の力が要ると彼女は言った。ルーシィは一度星霊王に会ったことがある。ルーシィ以外のこの世の誰も、王にまみえた人間はいない。ウルティアはルーシィが王を召喚できるはずだと言った。

『贈り物は気に入ったかしら?』
『贈り物?』

覚えの無い単語にルーシィは首を傾げる。

『リサーナ、よ』
『!?』

にやり、と声が笑う。

『復活させたのよ、どう?』
『復活…ってまさか…』
『そう。リサーナは死んでいたわ』

愕然とする。何を言っているのだ。死んでいた?復活させた?どういう…。

『あれはリサーナの魂だけを復活させて、本体は別の人間を変身させたものよ。その人間には意識はないけれど』
『な、何を言ってるの…?どうして、そんなこと…』
『あなたをうちに引き込む為よ』

衝撃と困惑にルーシィが震えると、ウルティアは何を当たり前な、とでも言うように声を呆れさせた。

『もちろんリサーナ自身はこのことがわかっていないわ。2年間の記憶がないのは当たり前よね、死んでいたんだもの。でも…私達なら、彼女をちゃんとした状態で復活させてあげられる。ゼレフなら…彼女に彼女自身の肉体をあげられる』
『そんな話を…信じるとでも思うの?』

ルーシィは冷や汗をかきながら強気に言う。ここで揺らいではいけない。

『信じなくても事実は一つ、よ』
『ゼレフがこっちの言う事を聞くとは限らないじゃない』
『今日のところは考える時間をあげるわ、ルーシィ。また会いましょう』
『ま、待ちなさいよ!』

どういうことだ。ルーシィを引き込む為にリサーナを不完全な状態で復活させた、と?ゼレフの復活に協力しないとリサーナは不完全なままだと?
混乱する思考が整理されていく。妖精の尻尾に帰ってあんなに喜んでいたリサーナ。ミラ。エルフマン。……ナツ。

ルーシィの意識は浮上した。






ああ、もうこの設定が痛々しい…。


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