ドキドキウキウキ!





みしり。

ギルドの床が軋む。グレイは片手で額を押さえた。

「てめえはホント、ろくなことしねえな」
「ああ?」

みしみし。

床板がたわんで釘が浮く。限界だと悲鳴を上げるそれを数秒見やってから、彼はミラジェーンを窺った。

「ギルド、沈むんじゃねえか」
「沈むとしたらナツだけね」
「おい、これどうなってんだよ」

ナツは眉を寄せて――
床を確かめるように、とん、と足を踏み鳴らした。

「おわああ!?」

ナツの乗っていた床板は騒音と木っ端を巻き散らしてあっけなく割れた。開いた穴を覗き込んでみれば、土台を突き抜けた中に、桜色が尻餅をついている。

「なんだよ、これ!?」
「言ったそばから沈んじゃったわね」

ミラジェーンがさほど困ってもいなさそうに笑う。喚く彼を見下ろして、グレイはこくりと頷いた。

「よし、墓穴を掘る手間が省けたな」
「勝手に殺すな!」

面倒くさい。グレイは顔面いっぱいに出ているだろうそれを隠すことなく、ちっ、と舌打ちした。

「てめえが開いた本は、ギルドの書庫にあった奴でよ」

慌てて取り上げたそれは、今はミラジェーンの手の中にある。

「書いてある呪文を口にすりゃあ発動する、簡単な魔法書だ。ったく、適当に読みやがって」
「……んだよ、そんなとこに置いとくからだろ」
「オレが持ってたのをひったくったんだろうが!」
「で、これ何の魔法なんだよ」

なんか沈んでくんだけど、とナツは気持ち悪そうに手を持ち上げた。グレイは本の中身を思い出す。

「たぶん、」
「その前にナツ、最近、楽しいことあった?」
「は?」

ミラジェーンが穴の中に声をかける。「楽しいこと…?」と呟きが聞こえたと思った瞬間、桜色が目の前に現れた。

「おわ!?」
「あ?」

思わず仰け反る。ナツはぽかん、と口を開けて下を見た。

「足着かねえ…幽霊になっちまった!?」

言った途端、重力を取り戻したようにまた穴に落ちていく。「ぐぉおお!?」と悲鳴が響いた。

「うん、やっぱり」

ミラジェーンがぴ、と人差し指を立てた。

「それは気分で自分の高さを操作できる魔法ね。気が沈むと、心と一緒に身体も重くなっちゃうの。逆に気が軽くなると上に浮くのよ」
「ミラちゃん、アイツ聞いてねえよ」

ナツは穴の奥で「幽霊!?幽霊って飯食えんのか!?」とよくわからない危機感に沸いている。グレイは眉間を揉みこんだ。

「まあ効果は半日もないだろ」
「そうね。とりあえず…」

ミラジェーンはにこにこと言葉を繋いだ。

「ここに居ても困るから、出てってもらいましょうか」
「…だよな」

このままだとナツの機嫌次第でギルドにどれほどの穴が開くかわからない。

「あ、幽霊ってルーシィ驚くか、な!?」

ずごん、と上から音がする。見上げると天井にナツが刺さっていた。

「いってぇ…うあ!?」

ひゅん、と穴の中に戻っていく桜色の残像に、グレイはそのまま埋まっていて欲しいと心の底から溜め息を漏らした。






沈んでも迷惑、浮いても迷惑。


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