ひみつ





「ハッピーとルーシィ?もちろんルーシィを助けるぞ?」

ナツはあっさりとそう言った。ほとんど考えた素振りもない。
質問したミラジェーンが、フライパンを片手に満足そうに笑った。

「即答ね」
「な、なんで」

ルーシィは中途半端に力の入っていた右手を、今度こそぎゅ、と握った。
妖精の尻尾は皆家族、と言い切るナツだが、ハッピーはその中でも特別のはずだ。卵を大切に温めて、孵化させたと聞いている。それからずっと、どこに行くにも何をするにも一緒――

そんな彼よりも、なぜ自分を。

狼狽えたルーシィに、ナツは「当たり前だろ」と笑う。嘘もからかいも見当たらないその笑顔が眩しくて、彼女はばっ、と顔を俯けた。
ナツが熱い。身体の半分だけ、焼けそうだ。
ナツはルーシィに対して遠慮がなく、平気で距離を詰めてくる。軽々と身体に触り、勝手に家に入ってくる。およそ年頃の男女としては有り得ない状態なのだが、彼の性格だから、と受け入れてきた。
それが気になり始めたのは、いつだっただろう。
周りに『仲良いよね』と言われ、否定するも心に波が立つ――嫌だとは思わない。しかし彼女は親愛と恋愛の差を明確に付けられずにいた。わかるのは、自分の中にある彼への気持ちが、恐らくナツの中にある自分への気持ちと同じだということだけ。
二人の間にはっきりとした言葉はない。もしかしたら、とは思うものの、関係は曖昧なまま、安定して居心地が良い。
たまに、飛び降りたくなるほどに――。

ナツは今、動き出そうというのだろうか。

ルーシィは恐る恐る彼を見上げた。意図せず上目遣いになった彼女に、ナツが牙を見せる。
そして、あっけなく、裏切った。

「ハッピーは小せえし、飛べるからな。何かあっても自分で逃げられるだろ?」
「……ああ、そうね…」

声が冷える。ルーシィは唇を噛んだ。

まただ。

惑わされて振り回されて、空回り。過剰なスキンシップには慣れても、こうして言葉に翻弄される。まるで、ハズレの紙が入った宝箱を何度も掴まされているようだった。
ナツに悪気はない。だからこそ腹が立つ。
張り詰めていた神経を宥めるように、ルーシィは右手の紋章を撫でた。本当は、ただの仲間なのかもしれない。ナツにとっても、自分にとっても――。
返答に納得した彼女とは逆に、ミラジェーンは食い下がった。じゅう、と音を立てるフライパンを揺すりながら、顔だけこちらに向けてくる。

「じゃあ、魔力が無くて飛べない状態だったら?」
「両方助ける!」
「どっちか一人、よ?」
「諦めんな!」

「そうね、頑張るわ」とミラジェーンがルーシィに向かって微笑んだ。被せボケは話題を変更する合図と見て、溜め息を返す。

「何作ってるんですか?」
「これ?フレンチトーストよ。ドロイの注文」

傍らの皿にはすでに数枚が重ねられている。ミラジェーンはそこに出来上がったばかりの一枚を乗せて、首を傾げた。

「あら…間違っちゃった」
「え?」

新しい皿を出して、最後の一枚をそこに移す。彼女はそれをルーシィの前に置いた。

「一枚多く作っちゃったから、あげるわ」
「え、良いんですか?」
「ラッキー!」

差し出された一本のナイフと二本のフォークを受け取って、ルーシィは思案した。行儀は悪いが先に切り分けてしまった方が食べやすい。
確認しようとナツを見ると、彼はミラジェーンにキラキラした瞳を向けていた。






「諦めんな!」「諦めるわ(質問を)」


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