「じゃあ、やっぱ二つっきゃねえのかよ」

他に好きな人が出来るか、キスするか。本人の意向を無視できないのなら、おそらく後者は除外されるだろう。
ウィルフレッドが「二つ、というか」と口ごもった。

「正確には、他の人を好きにならなくても良いんだ。薬の効果は一度きりだから、今の彼女の……ナツに対しての恋が終われば」
「…ナツがルーシィをフる、とかか?」

ウィルフレッドは希望を見出したような顔で頷いたが、グレイには一番難しい選択肢に思えた。ナツがルーシィに好意を持っていた場合、そういう嘘を吐けるとは思えない。ナツ抜きで、彼には好きな女性が居るみたいだとルーシィに言い含めるのが関の山だろう。しかしこういう状況で、彼女がその嘘を素直に信じるとも思えない。
なにより、ルーシィが可哀想で見ていられない。

それならむしろ、逆に――。

「仕方ねえ。終わらせる線で行くしかねえな」

おぼろげながらも方針を固めると、気が随分と軽くなった。グレイは立ち上がると、軽く尻を叩いて――

「あれ」
「……うん。そこ」

ウィルフレッドが指し示した服を慌てて拾った。




呼吸が苦しくなって、ナツは目を開けた。

「う……?」

青くて白い何かが、目の前を覆っている。
近すぎるそれには焦点を定めることが出来ない。払いのけようとしたが、上手くいかなかった。何かが、手を動かすのを邪魔している。

「あ、起きた」
「ハッピー…?」

ゆらり、と離れていったことで、それがハッピーの尻尾だとわかった。彼はナツの顔の横で背を向けて座っている。

「何して……っ、あの野郎!」

ウィルフレッドのことを思い出して、ナツは飛び起きた――つもりだった。それも阻止され、反動で背がベッドに打ちつけられる。一瞬呼吸が止まって、ナツは目を瞬いた。

「なんだこりゃ!?」

ナツを括りつけているのは氷の手枷足枷だった。犯人は一人しか居ない。
試しに炎を移してみたが案の定溶けなかった。ナツは天井に向かって声の限り叫ぶ。

「グレイの変態!アホ!露出狂!」
「オイラ、呼んでこようか?」
「大丈夫だ、すぐ来る。えー…ウザ氷!消えてなくなれ!いや、それよりグレイになれ!」

扉が破壊音にも似た音を立てて開いた。

「オレはオレだよ!つかなんだ!?お前消えてなくなるよりオレになった方が嫌だってのかよ!」
「当たり前だろ。何言ってんだ」
「よっし、半世紀は溶けないと思え」
「コールドスリープって奴だね」

本気で魔力を溜め始めたグレイを無視して、ナツは指を動かした。

「これ、外せよ」
「ああ?ダメだ、お前暴れんだろ」
「暴れねえよ、燃やすだけだ」
「お前の暴れる定義がわかんねえよ」

グレイはどかりと隣のベッドに腰掛けた。難しそうな顔をして、前髪を掻き混ぜる。

「回復すんの早かったな。一時間も経ってねえよ」
「慣れたんだろ」
「お前、ホント人間離れしてんな」

はぁ、と溜め息を吐いて、グレイが唸る。ナツはそれに鋭く視線を投げた。

「ルーシィは?」
「エルザとウェンディが家に連れてった。二人とも戻って来てないから、ルーシィもまだ寝てんじゃねえか」

ハッピーがぱたりと尻尾をベッドに落とす。

「ナツも起きたし、教えてよ。ルーシィはなんで倒れたの?」
「ウィルが何かやったんだろ!?アイツ絞めて吐かせろよ!」
「落ち着けよ。それはもう聴いてきた」
「ああ!?じゃあなんだったんだよ!?」

グレイは思案するように頭を揺らした。苛立つナツとハッピーを交互に見てから、そっと目を逸らす。






グレイはルーシィに甘くナツに厳しい。


次へ 戻る
main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -