「嘘だろ?」

木の陰に隠れながら、ナツは呟いた。町外れにまで来た男達が、数人と合流して下卑た笑いを浮かべている。
ルーシィがキラキラした目でこっちを見た。

「ね?」
「いあ、まだわかんねえよ」

なんとなく信じたくなくて、ナツは首を振った。大体、まだ男達が集まってきただけだ。何をしているわけでもない。
筋肉質のスキンヘッドが大げさに両手を上げた。

「何言ってるの?」
「…『脂肪が刃に付いて手入れが大変だ』って」
「うわ、なんか生々しいわね…でもほら、決定じゃない」
「待てよ、肉屋かもしんねえし」
「なんでアンタそんな否定的なの?」

ルーシィの目がじとりと刺してくる。ナツはむぅ、と口を尖らせた。

「オレは慎重なんだよ」
「オレさんって誰?あたし知らない人だわ」
「お前な…。間違って一般人殴ったら、オレが後でエルザにボコられるだろ」
「大丈夫よ、間違いないって」
「その根拠は何なんだよ」

男達は何かを待っているのか、一所に集まったまま会話らしい会話も交わさない。断定するには材料が少なすぎた。
ルーシィは腕を組んで木に凭れかかった。

「仕方ないわね。もうちょっと様子を見るわよ」
「……ルーシィ、お前さ」
「何?」
「いあ…なんでもねえ」

いつもはナツの暴走をルーシィが抑えている。立場が逆で、調子が狂う――。いや、ナツの調子は昨日から狂いっぱなしだった。

アイツが来てからだ。

はぁ、と溜まった息を長く吐き出す。ルーシィが男達に目を向けながら、ぽつりと訊いてきた。

「あいつって?」
「……え?」

ルーシィは感情の見えない瞳で、ナツを捉えた。そこでようやく、声に出ていたのだと気付く。

「…別に」
「ウィルのことなら、」
「別にっつってんだろ」

また語気が荒くなった。ちっ、と舌打ちして彼女から目を逸らす。

「なんでもねえよ」

ルーシィはヒールで木の根元を刺した。ぐりぐりと穴を開ける。

「ウィルね、あんたのこと、興味あるみたい」
「は?」
「熱心に訊いてきたわよ?炎の魔法なんてカッコ良い、て」

やっぱ悪い奴じゃねえ。

人懐こそうな丸い瞳が輝くのが容易に想像できて、ナツは唇を噛んだ。そう思う度に、ナツの中の、どろりとした黒い何かが蠢く。
ルーシィは両手の指を絡ませながら、ナツを上目遣いで見つめた。

「…ナツは、どう思う?ウィルのこと」

訊かれたくないことを訊かれた。考えたくないこと、だったかもしれない。
ナツは呻きにも似た答えを返した。

「さあ」
「さあ、って」
「わかんねえよ、知らねえもん」

昨日も今日も、ほとんど話していない。だから、この返答で良かった。十分、ルーシィを納得させられただろう。
それでも、考えていたことが、ナツの口をついて出た。

「悪い奴じゃ…ねえみたいだけど」
「そっか…」

ルーシィはどこか苦しそうに笑った。

「ナツがそう言うなら、そうなんだろうね」
「オレのことはどうでも良いだろ。お前が…どう、思うか、だろ」

耳に蓋が出来るなら、今すぐにしたい。
ナツは自分の言葉を心底後悔しながら、ルーシィの掘った穴を見つめた。






否定する材料が見付からない。


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