夕暮れが近付いてきた。

「ナツとルーシィはそっちを頼む」

辻斬り集団とやらは、本拠地が明らかになっていない。被害のあった地域を中心に見回って、一人でも発見しなくては話にならなかった。
エルザが示した方向を見やりながら、ナツは内心ざわついていた。
ハッピーは空から警戒しているため、ここには居ない。ルーシィと二人きりになってしまう。
彼女との会話に不安など、初めて感じることだった。何を話してもウィルフレッドに繋がるような気がする。
ルーシィは右拳を胸の前で握ってみせた。

「任せて!」
「じゃあ、また一時間後に」
「見付けたら報せろよ」

エルザとグレイの後姿を見送って、ナツは口をへの字に曲げた。

「ずいぶん気合入ってんな、お前」
「そお?」

ルーシィがこういう仕事に初めから乗り気なのは珍しい。
『強いんだから、あたし達』――あの言葉を体現しようとしていることくらい、すぐにわかった。しかしそれはとりもなおさず、ウィルフレッドの存在が関係しているということになる。
ナツには絆を示すように聴こえたあの言葉は、そもそもウィルフレッドに心配させないために発されたものだ。それは彼には安心を通り越して、ルーシィに強く惹かれる要因となった。
自分にとって嬉しい言葉が、彼にとってそれ以上の意味を持つ。

なんなんだ、アイツ。

あの時味わった、足元が崩されていくような感覚が蘇って、ナツは唇を噛む。
ふい、と顔を背けると、目に入った彼女のブーツは軽くステップを踏むように踊っていた。身体の中で渦巻く黒い何かが、ナツに『手柄を立ててアイツに良い顔しようとしてる』と囁く――。
彼女はナツの考えを裏付けるように、明るく笑った。

「あたし、自分で言うのもなんだけど、強くなったと思うんだ」
「…ふうん」
「ふうん、て!なんか無いの?」
「お前うっせぇな。いつにも増して」
「……」

ルーシィの空気が冷えた。低く唸る。

「何、怒ってるのよ?」
「別に怒ってなんかねえよ」
「そんなにあのクッキー、不味かったわけ?」
「だからそんなこと言ってねえだろ!」
「口直しするくらいだもんね。ミラさんのジュースは美味しかったですか?」

ぴき、とこめかみに青筋が浮かぶ。いい加減にしろ、と言おうとして、ナツはルーシィの目尻に溜まりかけた涙に気付いた。く、と喉が鳴る。
彼女はナツの視線に感付いたか、ぐい、とそれを拭った。

「…自信作だったのよ」
「……悪ぃ」

ここまで来ても、ナツは美味しかったとは言えなかった。自分が言っても彼に勝てない。『好きな人に貰った特別』以上の言葉など、あるだろうか。
まだ、耳に残っている。ナツにとって衝撃的な一言だった。クッキーの味を思い出すことさえ邪魔してくる。
ルーシィは悲しそうに笑って首を振った。

「んん……あっ」
「え?」

彼女はナツを建物の陰に押し込んだ。しっ、と人差し指を立てる。

「あれ、怪しくない?」

示す先には、二人の男が歩いていた。しかし武器になりそうな物は持っていない。ナツが首を傾げると、ルーシィはこくこくと頷いた。

「辻斬りっぽい目付きしてる!」
「いあ、それどんなんだよ」
「あんなんよ。本に出て来る辻斬りって、みんなあんな感じよ」
「……」

ひく、と頬が引き攣ったが、彼女は「絶対そう!」と譲らない。面倒になって、ナツは溜め息を吐き出した。

「じゃあ尾けてみようぜ」
「うん!」

ルーシィの瞳はどこまでも真剣で、自分の考えを疑っていない。
エルザ達に報告しないで良いよな、とナツは頭を掻いた。






オレが美味かったって言ったって、どうせルーシィは良かった、で済ますんだろ。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -