「――…いいか?」
「うん……」

満足そうに笑う彼の表情を、見る者はいない。





雪の音








沈んだ意識がその一言で浮上した。

「ルーシィ見ろよ!雪だ!」

回らない思考を置き去りに、びく、と身体が強張る。引き摺られるようにして目を開けると、視界いっぱいに満面の笑みが広がっていた。

「きゃー!?」
「雪だよ、見ろって!」

ベッドに横たわるルーシィの上に、ナツが跨っている状態で覗き込んでいる。あまりのことに彼女は手を振り上げた。

ばちん!

盛大な音がナツの顔面で響くも、叩かれた本人はぱちぱち、と瞬きをしただけで、すぐに持ち直す。

「雪だって!外見ろよ!」
「い、いいからどいてっ!近いっ!」

再び顔を近付けてくるナツに、ルーシィは半泣きになって喚いた。
年頃の女性の部屋に侵入してくる非常識さには、不本意ながらもう慣れたつもりでいた。しかしこっちが眠っているときに、しかもこんな距離で。
ルーシィの反応に首を捻りつつ、ナツがベッドの脇によけた。が、やはり理解はしていなかったのだろう、すぐに彼女の布団を引き剥がす。
身を包んでいた温かさという唯一の安楽が、一瞬で失われた。

「わー!?」

寝乱れてパジャマがずり上がり、片足が剥き出しになっていた。慌てて隠しながら相手の視線を確認するが、

「なんだよ、さっきからうっせぇな。今何時だと思ってんだ」
「その言葉そっくりそのまま返すわよ!」
「3時」
「時間を訊いたんじゃない!」

ナツは彼女の肌には一切興味を示さず、膝をベッドに乗り上げた。カーテンを開け放った窓を指差して、背を軽く押してくる。

「ほれ、見ろよ!」

何から言っていいのか迷う程の文句を頭の中で羅列したまま、ルーシィはその指の先を見やった。と、二度瞬きして、そっと窓に近付く。

「な?すごいだろ!」
「わ…」

寝る前はただ寒いだけだったはずの街が、屋根も道も、全てが白く染まっている。
粉雪の舞う空気の中、まるでスノーボールのような幻想的な風景に、ルーシィは目を輝かせた。

「きれぇ…」
「だな」

なぜか自分の事のように、嬉しそうにナツが頷く。その幼い子供のような表情を見て、彼女は諦めの溜め息を吐いた。
ルーシィはナツに甘い。迷惑だと思うことは多々あれど、この笑顔を見ると全て許してしまう。そしてそんな自分に呆れながらも嫌ではなく――むしろこの関係が心地良いとさえ思っていた。

勝手なところも、わがままも。
結局のところ、好きなのだ。ナツが。恐らく、どうしようもなく。

今のままが好きだから、踏み出すつもりも無いけれど。

自嘲して、再び窓の外に目を移す。夜はまだ終わる気配を見せず、降る雪だけが静かにときを刻んでいた。

「結構積もってるわね」

街灯が丸く切り取った白い絨毯には、足跡一つ無い。見たところ3cm程の深さはありそうだ。
ふと何かが引っかかって、今だしんしんと降り続く空を見上げると、唐突に肩に重みが加わった。






ルーシィは冬パジャマも露出多いのだろうか。


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