「なぁ、ルーシィ?」
「な、によ…」

どもりかけた言葉をなんとか立て直して、ルーシィは唇を噛み締めた。
肩に回された筋肉質の腕が、彼女に否が応でも男を意識させる。ナツのこの行為は珍しいものではないはずなのに、緊張が心臓を強く叩いて苦しい。
夜だからか。静かだからか。それともその両方か――。急に二人きりという事実が、彼女の頭を占領した。
思考を逸らせるように、早口で訊く。

「ねえ、ハッピーは?」
「…寝てたから置いてきた」

ナツはルーシィの様子に疑問を持ったか、ぐ、と肩を引き寄せてきた。同時に、顔を覗き込むように近付けてくる。
左半身が熱くなった。いつの間にか掴んでいた窓枠を握り締めて、きゅ、と目を瞑る。
ナツの顔など、見れそうにない。

やだやだやだ!また意識しちゃってる!

ナツは平気で性別を飛び越える。そういう奴だとわかってはいても、思わせぶりとも取れる言動に振り回されてしまう。
そして心のどこかで今度こそは、と期待している自分に気付いてしまう。
翻弄されるだけ無駄なのに、この瞬間にこそ、ナツが好きだと自覚してしまう。

いつものことでしょ!
落ち着け、あたし!

パニックになりそうな頭を叱咤して、恐る恐る目を開ける。視界に入った自分の手を無理やり凝視して、ナツの言葉を待った。

「ルーシィ」
「なにっ?」

口の中が渇いて声が上手く出せない。
そんなはずはない。何度も肩透かしを食らってきた。
だから気のせいだ。ナツの声が甘く聞こえるのは。

「あのな」

首筋に、息がかかった。

「っ、もうダメ!」
「は?」

耐え切れず腕を振りほどく。さっ、と距離を開けると、潤んだ視界の中でナツが首を傾げた。

「ダメ?」
「なんでもないっ!何言いかけたのよ!?」
「んあ?あー、外行こうぜ」
「はい?」

気が抜けて、肩ががくん、と落ちた。やはりナツはナツだったらしい。
どこかほっとしつつ、ルーシィは半眼を作った。

「なんでよ。まさか雪合戦だとか言い出さないでしょうね」
「お、それいいな!」
「良くない!というか何その動き!?なんでシャドーボクシング!?」
「ルーシィ、バカだな。雪合戦っつったら雪だるまになったり血だるまになったり」
「しないからね!?」

しゅっしゅっ、と左右の拳を突き出すナツを見据えて、ルーシィは頭を振った。

夜の3時。
雪合戦。
ナツ。

結論――あたし、死ぬわ。

ナツは一度窓の外を見てから、ルーシィに向き直ってにか、と笑った。

「雪だし」
「うん」
「キレーだろ?」
「そうね。でもだからって雪合戦はない」
「付き合ってくれ」
「冗談じゃないわよ」
「…こっちだって冗談なんかじゃねぇよ」
「え?」

それまでの上機嫌ぶりが嘘のように、ナツの表情が無くなった。しかし一瞬後、責めるような視線を向けてくる。
突然の変化に呆然とすると、彼はむぅ、と口を尖らせた。

「もっかい言うぞ?」
「え、うん」
「雪が降ってるだろ」
「うん」
「マロンシックだろ」
「ロマンチックね」
「付き合ってくれ」
「だから…え?」

さっきと同様に返事しかけて、息が止まった。






公式雪合戦はちょっと燃える。


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