やだやだやだ





女性は怯えた目で訴えた。

「帰宅したら物の位置が変わっていたり、チェストが荒らされていたり…。鍵も換えてみたんですが、同じことの繰り返しで」

喫茶店の奥まった席には、店員すらあまり近付かない。骨が細そうな印象の依頼主は、店内の雰囲気が暗く感じるほど顔色が悪かった。
ナツは話を聞きながら、ちらりと横のルーシィを見やった。彼女は膝の上で両手をきつく握りこんでいる。

「私、もう怖くて。今は友人宅に泊めてもらっているんです」
「そうですか…それはお辛いですね」

ルーシィは女性を労わるように目を細めた。が、すぐにナツにじとりと物言いたげな視線を向けてくる。

「ん?なんだよ、その目」
「アンタ、思うところないわけ?」
「へ?」

何のことだかわからない。ナツが首を傾げると、ハッピーがすました顔で見上げてきた。

「ナツ、ルーシィはナツも同じだって言ってるんだよ」
「はあ?同じって、何が」
「不法侵入してチェスト荒らすって、まんまアンタじゃない」

依頼人がぎょっとしたような目でナツを見た。それに慌ててぶんぶん、と首を振る。

「それはルーシィんちだからだろ!?」
「ストーカーだ」
「ちょっと待て、なんでハッピーも一緒になって非難してんだよ!?お前だって入ってんだろ!」
「オイラ猫だもん」
「あの…」

女性が躊躇いがちに脱線していく会話を遮った。こほん、とルーシィが咳払いをする。

「え、えと。じゃあ護衛、ということで良いかしら」
「出来れば、犯人も捕まえて欲しいんです。このままじゃ、安心できなくて」
「そうだよね。じゃあ家で待ち構えようか」

ハッピーの言葉に、女性が困ったような表情をした。その顔色を読んだように、ルーシィが提案する。

「彼女と犯人を鉢合わせさせない方が良いんじゃないかしら」
「そっか。二手に分かれる?護衛と犯人探し」
「オレ犯人殴りの方が良い」
「アンタが言うとシャレになんないわ」

ルーシィは人差し指を顎に当てた。んん、と唸る。

「じゃあ、あたしが彼女と一緒に行動するから、ナツは家を見張ってて」
「おう」

別行動。ルーシィと一緒の仕事で、こういうことは少ない。頷いたものの眉を下げると、ハッピーが胸を叩いた。

「オイラがナツと一緒に居るよ。だから安心して」
「へ?いや、不安なことはねえけど」
「違うよ、オイラ依頼人とルーシィが不安になると思って」
「んあ?」

ドヤ顔のハッピーに瞬きを返すと、ルーシィが猫の頭をぽん、と撫でた。

「うん、しっかりナツを見張っててね」
「ちょ、おい。まさかオレが家の物を勝手に触るとか心配してんのかよ?」

ぎょっとして詰め寄ると、ルーシィはすまし顔で横を向いた。

「日頃の行いが物を言うのよね」
「オレだって、ルーシィんちかそうじゃねえかくらい、判断できるっての!」
「あたしんちでもダメだからね!?」
「あの、私が言うのも何ですけど、恋人同士なら、ある程度は良いんじゃないですか?」
「良くない!じゃ、なくて!違うから!」

ルーシィの頬が赤く色付く。必死に否定する様子に理由のわからない寂しさが胸を掠めて、ナツは口を尖らせた。

「さっさと仕事始めようぜ」
「そっ、そうね!えと」
「私の仕事先に付いて来てもらえますか?」
「ええ。じゃあ、気をつけてね、二人とも」
「おう」
「ルーシィもね」

…やっぱ、もう少し引き伸ばせば良かった。

依頼主は伝票を取ると、ルーシィと共に席を立った。渡された地図と鍵を風呂敷に仕舞うハッピーをそっちのけに、ナツはさらりと揺れる金髪を目で追いかける。

「オイラ達も行こう」
「そだな」

早く仕事を終わらせたい。ナツはルーシィの居なくなった席を見ないようにして、立ち上がった。






ナツVSストーカー。


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