驚きからまじまじと彼を見つめるも、ルーシィは我に返って慌てて首を振った。
「やっ、あたしだってっ」
「で、でも、ルーシィがそのつもりなら、そ、それでも、良いっていうか」
「え、え?」
身を捩ったルーシィの腕を、ナツの手が引き戻した。マフラーが重力に従って首に戻る。
目が、真剣味を帯びた。
「オレも、そのつもりで……良いよな?」
真っ直ぐで、強い瞳。ルーシィは惹きこまれて喉を鳴らした。
それでも良いって、何?そのつもりでって、何?
お互いに、意識して――?
「い、良いんだろ?」
「あ…う、うん……」
押し切られるように、ルーシィは頷いた。満足に思考することも出来なかったが、彼女はすぐにその返事が間違っていないと確信する。
「ルーシィ」
ナツが促すように言って、手のひらを彼女に向けた。それはやはり、武骨な男の手で。
それでも――『ナツ』の、手で。
「う、ん」
耳も息も熱くて苦しい。
でも。
ナツなら。
ルーシィはすぅ、と息を吸って、瞼をきつく閉じた。ゆっくりと手を上げて――
空中を、押した。
「え?」
そこにあったはずのナツの手に触れない。目を開けると、代わりに別の感覚が出現した。
もにゅ。もにゅもにゅもにゅ。
「お、オレの手より、でかいんじゃね?」
赤い顔で、しどろもどろに口を動かして。
ナツは一点を見つめながら腕を伸ばしている。
ルーシィはそれを追ってぎぎぎ、と視線を下げた。思い切り腕を振りかぶる。
「何すんのよーっ!?」
「だっ!?」
ばちん、と高らかにナツの頬が鳴った。加減など考えもしなかった。手のひらがじんじんと熱を持つ。
「いってぇ」
「こっちだって痛いわよ!」
「え、痛かった?悪い」
「そっ、そうじゃない!」
今しがた良いようにされた胸を庇って、睨み付ける。困惑した表情のナツが、小憎たらしく見えた。
「比べるのは手の大きさでしょ!?」
「へ?だ、だってっ!心の準備って言ったじゃねえか!」
「なんでそれでこうなるのよ!?」
「するんなら手の準備だろ!」
この状況でも自分擁護ができるつもりでいるのか。言い訳にもならない反論をしてくるナツに向けて、ウェンディ達が赤い顔で援護射撃をしてくれた。
「ナツさんサイテーですっ」
「セクハラね」
「オレが悪いのか!?」
「あんた以外の誰が悪いってのよ!?グレイも何か言ってやってよ!」
黙って目頭を揉み込むグレイに、ルーシィは矛先を向けた。しかし彼は、急に意識を引き戻されたようにびくりと肩を揺らす。
「あ?ああ、うん……良い仕事したな、ナツ」
「うん?さんきゅ?」
「アンタらは、もう……!」
ルーシィは鞭のホルダーをぱちん、と外した。
「二人ともそこ座んなさい!」
「オレもかよ!?」
「むしろお前がメインだろうが、ナツ!」
「バカらしいわね」
「やっぱり大きい方が……」
ルーシィにはもちろん、フォローする余裕などなく。
ウェンディの呟きは床に落ちた。