「似てくるって、まるで夫婦みたいね」
「「ふっ!?」」
息が止まる。揺れた肩とともに視界も動くが、右側だけは止まって見えた。ぴったりと同じタイミングで、ナツも揺れている。
「「なっ、何言ってっ!」」
綺麗にハモって、思わず、顔を見合わせた。ミラジェーンが目を丸くする。
「あら、ホントにそっくり」
「ミラさん!?」「ミラ!」
再び重なった声に、口を噤む。ナツがきっ、とルーシィを睨んだ。
「マネすんな!」
「してないし!」
同様に睨み返して、ルーシィは気付いた。
真っ赤じゃない。
自分も同じように赤くなっている。見えなくとも、直感でそうだとわかった。今のナツは鏡を見ているような気持ちになる。嫌なことではない。それどころか――。
胸の真ん中にある暖炉に火が点いたように感じて、ルーシィは小さく俯いた。
ちょっと、嬉しい、かも。
緩んだ口元を手の甲で隠す。
ナツはもがくように、ミラジェーンに食って掛かった。
「ミラだって…っ、え、えと、リサーナと似てるだろ!」
「血を分けた姉妹だもの」
「ぐぬっ…お、オレらはそのっ、あー…ルーシィ、オレら、何か分けたっけ?」
「はい?」
「あ、一昨日、ステーキ分けてやったろ!」
「あたし食べたの、一口だけなんですけど」
「それでも分けた!よし、オレらはステーキを分けた、えと…」
「『夫婦』ね」
「そう、夫婦…て違うだろ!誘導すんな!」
「完全に遊ばれてるわね…」
ナツは全身全霊で焦っていて、いつも以上に支離滅裂だった。茹蛸のような横顔が可愛くて、ルーシィの口からぷ、と笑いが漏れる。
「なんでルーシィが笑ってんだよ!?」
「あはは、ごめん」
「くっそ…もういい!オレ、暴れてくる!」
やや足を縺らせて、ナツが勢い良く立ち上がった。逃げるように、酒場の真ん中へ突入していく。
「おらあああ!誰でも良いからかかってこぉおい!!」
「からかいすぎたかしら」
壁が震えるほどの雄叫びに、ミラジェーンが苦笑する。
「今日はギルド、形残っていると良いわね」
口調にはさほど心配した様子はない。もっとも、実際壊されたとしても彼女なら笑って佇んでいそうではある。
ルーシィが頬を掻くと、彼女は今のうちに下げられる食器集めてくるわね、とカウンターを出て行った。
背後ではどたんがたん、と乱闘の音が響き始めている。
「ステーキを分けた、ね……」
そういえば、ステーキを一口もらったのも、このカウンターだった気がする。
ルーシィは誰も居なくなったテーブルを人差し指で撫でて、小さく、ごく小さく、呟いた。
「あんまり壊さないでね?――あなた」
がしゃん!
ナツが盛大に転倒した。