「おい、お前ら!」

ハッピーがナツと最強チームの面々で朝食をとっているとき、ガジルがテーブルにぶつかってきた。彼にしては慌てた様子を隠そうともしていない。
揺れたファイアパスタをずるり、と啜って、ナツが眉間に皺を寄せた。

「んあお?」
「あの展覧会、大変なことになってんぞ!」
「ほが!?」
「きゃあ!?」

ナツが立ち上がりざまに吹き出した火の粉が、テーブルの上に降り注ぐ。すこーん、と音がして、桜色の頭が傾いた。

「え?」

目の前で、ナツの身体が後ろ向きに倒れていく。床にからん、と転がったアルミ製の皿を見て、ハッピーは今しがた使われた凶器だと理解した。ごくり、と喉が鳴る。
余程イイところに当たったのか、ナツは目を回して動かなくなった。

「おい、エルザ!?」
「すまない。つい」
「つい!?」
「ナツー!オイラを置いていかないでー!」
「死んじゃいないわよ!」
「ガジル、大変なこととは何だ?」
「お、おお…話進めんのか?」

エルザがぐたりとしたナツのマフラーを掴んで引き上げる。ガジルはぎょっとしたような顔で二人を見比べたが、やがて気を取り直したようにギルドの入り口を指差した。

「火事だ!」



展覧会会場の周りには人が集まって騒いでいた。入り口からは煙が漏れ出ている。火こそ見えないものの、焦げ臭さが漂っていた。
ハッピーは気絶したナツを抱えたまま、人垣の一番前に着地した。それを掻き分けるようにして、ルーシィ達が姿を見せる。

「ハッピー!」
「あい!まだ消火活動始まってないみたいだね」

ルーシィは時間を確認するように空を見上げて「まだ開場はしてなかったのよね」と頷いた。

「まだそんなに燃え広がってはいないみたい」
「あい、多分……ルーシィ、アクエリアスは?」
「今は無理」
「じゃあグレイ」
「ああ。多少建物壊れても仕方ねえよな」
「頼むぞ」
「出来るだけ最小限でね」

グレイが両手を構えたとき、それを遮るように人垣が割れた。どか、人影が蹴り出される。

「うお、なんだ?」
「コイツが放火しやがったんだ」

それは縄で縛られた男だった。数人の男達にぐい、と髪を引っ張られて、顔を無理やりに上げられる。
その人物を見て、ハッピーはあっ、と声を上げた。

「この人、画商の人だよ!」
「画商?なんで?」

眉を寄せたグレイの横を、桜色の影が突っ切った。

「ナツ!」
「おい、誰か中に突っ込んだぞ!」

集まってきた人々の間に声が上がる。
ルーシィが心配そうに両手を胸の前で組んだ。グレイがその肩をぽん、と叩く。

「アイツは大丈夫だろ」
「心配は要らない、妖精の尻尾だ」

エルザが慌てるギャラリーに両手を上げた。地面に転がされた画商に、視線を向ける。

「どうして火を点けた?」
「証拠隠滅だ」

答えたのは別の人間だった。
ハッピー達が振り返ると、厳しい顔つきで画商を睨み据えている人物が居た。走ってきたのかやや息が上がっている。その後ろには数人が付き従うように控えており、その制服から、評議院の部隊だと知れた。

「妖精の尻尾のエルザ・スカーレットだな」
「いかにも」
「消火を手伝ってくれないか。人の生命がかかっているんだ」
「火はもう問題ないはずだ」

エルザが向けた視線の先で、煙が勢いを失くしていく。彼女は満足そうに微笑んだ。

「ナツが消火している。誰か中に?」
「ああ。少なくとも十数名が」
「十数名?」

ハッピーは眉を寄せて会場を振り返った。まだ開場前のこの時間に、どうしてそんな大勢が居るのか。
部隊の隊長らしき男が、ぐ、と拳を握った。

「絵が、人間なんだ」
「絵が?」
「全てではないが……この画商は、絵に生きている人間を閉じ込めて売っていた」
「それって…人身売買ってことか!?」
「揺さぶりをかけたら、こんなことに…申し訳ない、調査を不用意にしすぎた」
「いや…――」

項垂れる男性に、エルザが慰めるように話しかける。しかし、ハッピーの耳には彼らのやり取りはもう届いていなかった。

「生きている、人間…」

グレイが口の中で呟く。恐らく、同じことを考えているのだろう。

皆が訝しむほどの、ナツの執着。あの瞳――。
絵ではなく、本当に人間に恋をしていたというのか。あれが人間であることを、本能で嗅ぎ取った、と?

視線だけを動かして、ルーシィを窺う。
彼女は無言で、会場の入り口を見つめていた。






火事に飛び込んじゃいけません。炎が平気でも建物が崩れてくるでしょ!


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