「……」

ハッピーはテーブルの上からガジルのビスを数えていた。
三つ、四つ、五つ――。視線に気付いたか彼は顔をしかめて、ジョッキの底で頭を小突いてくる。

「いぎゅ」
「おら」
「んぎゅ、ふぎゅ、むぎゅぎゅ」
「えーと、ガジル?」

ルーシィが上目遣いでガジルを窺った。恐る恐る、といった風情で、切り出す。

「何か、用?」
「別に」
「じゃあ、なんで」
「オレがここにいちゃまずいのかよ」
「まずいってことはないけど。珍しいじゃない、私の隣に座るなんて」

カウンター席ならいざ知らず、ルーシィとハッピーが座っているのはテーブル席。加えて、今はそれほど混雑しているわけではなく、他のテーブルにも空きが見られる。
ガジルはけっ、と顔を背けた。

「別に、なんもねえよ」
「そう…」

ルーシィは興味なさげに相槌を打ったが、納得はできなかったようだ。ガジルの方に置いてあったグラスを手前に引いて、促すように彼に目を向ける。
ハッピーはこっそりとガジルに感謝した。今のルーシィには、誰でも良いから話し相手が居た方がいい。少しでも、ナツのことから頭を離した方が。
しかしガジルの話こそが、ナツに関するものだった。

「火竜の野郎、今日も行ってんのか」
「見ての通りよ。ナツに用なら、展覧会に向かった方が早いわよ」
「別に用はねえよ。てめえは行かねえのか」
「嫌よ……見たくないもの」

ルーシィが小さく唇を噛んだ。何かに耐えるように、目を伏せる。テーブルの上で組まれた両手に、ぐ、と力が込められたのがわかった。
「あの展覧会だがな」ガジルはルーシィの後頭部あたりに視線を向けながら声を低めた。

「有名な画家が描いたわけでもねえのに、かなりの値段つけてやがる。相場とかけ離れてるらしい」
「そうなの?」
「ああ。それでも売れてんだよ、変だと思わねえか」
「確かに、変だね」
「今んとこ、売買契約が成立してんのは全部人物画っつーのも、引っかかる」
「あい?でも…偏ってたよね。だからじゃないの?」
「……あの絵は?」
「まだ売れてねえ。火竜が真正面に突っ立ってるから買い手つかねえかもな」
「そう……」

ルーシィの横顔が金髪に隠れる。ハッピーが睨むとガジルは一瞬だけバツの悪い顔をしたが、下手くそな咳払いをして話を続けた。

「でだ、絵を買った奴らを捕まえて訊いてみたんだが、妙におどおどしてるっつうか」
「ガジルが怖かったんじゃないの?」
「違えよ!目も合わせねえんだぞ?」
「ガジルが怖かったんじゃないの?」
「二回も言ってんじゃねえよ、青猫!」

ガジルは牙を剥いてハッピーに凄んだが、ぷ、と笑みを零したルーシィをちらりと見てトーンダウンした。「とにかく、」と繋げる。

「なんか胡散臭えんだよ、あの展覧会」
「ガジル?」
「あ?」
「わざわざ、調べてくれたのよね。ありがとう」
「別にっ…そんなんじゃねえよ」

がたん、と立ち上がって背を向ける。ルーシィと目を合わせて笑いを堪えていると、ガジルは小さく唸った。

「てめえには借りがあるからな」
「そんなの」

くす、とルーシィが笑った。

「気にしてないわよ、もう。……レビィちゃんもね」
「けっ」

毒づいて、ギルドから出て行く。その長い髪を見送って、ハッピーは首を傾げた。

「おどおど、かあ」

絵を買うことが、後ろめたいのだろうか。答えを求めてルーシィを窺ったが、知るはずもなく――彼女は肩を竦めて首を振った。






ハッピー&ガジルって組み合わせも面白いかもしれん。


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