ねえ、こっちを向いて。
私を見てよ。
あの子じゃ、なくて。
ここに私が居るじゃない。

お願い――ナツ。





展覧会で逢った女の子








「ねえ、あれ、寄ってかない?」
「あん?」

最強チームでの仕事帰り、それを指差したのはルーシィだった。色の乗った爪の先を見て、ナツは顔をしかめる。

「絵画の展覧会?」
「うん、即売会も兼ねてるんだって!今有名な画商がマグノリアに来てるって話題なんだあ」

エルザが腕を組んでこくりと頷く。

「たまにはお前達も芸術に触れなくてはな」
「あー?」
「やだよ、退屈だろ」
「なんだ?」
「行ってきます!」
「あいー!」

エルザの一睨みで、ナツ達は会場の入り口へ走り出す。

あ、ルーシィ。

ナツは少しだけ歩を緩めた。が、睨まれたわけではないはずのルーシィも、何故だか慌てた様子でエルザから逃げるように後ろに付いてきている。それが嬉しくて、ナツは口角を上げた。

「面白ぇなあ、ルーシィは」
「はあ?何よ?」
「いあ、何も」

翼で先行していたハッピーが、入り口の端に立てられた看板を見てナツの足元に下りてきた。

「あ、入場料は要らないんだね」
「当たり前だろ。金かかんなら、ルーシィが寄ってこうなんて言うわけねえだろーが」
「んふふ、何か言ったかしら?」
「なんでもない」
「おいナツ、お前ルーシィまで怒らせんなよ。前も後ろも怖ぇだろ」
「何が怖いんだ、グレイ?」
「うお!?」

グレイが跳ねた弾みに――弾みとしか言いようのないタイミングだった――脱いだ上着を、ナツは目で追った。その後ろに、緋色の髪がさらりと揺れている。

「こんなところで立ち止まっていたら迷惑だろう」
「あい、迷惑です」
「お前の立ち位置おかしいからな、ハッピー」
「どうでもいいけど、服着ろよ」
「さ、行きましょ」

すい、とルーシィがナツの背中を押した。肩に金髪が微かに触れる。
自分とルーシィの距離は、いつだって近い。そのことにナツが気付いたのはつい最近だった。彼女の瞳に映った自分が他の誰より大きくて、そんなに無遠慮に近付いたかと恥ずかしくもなったのだが、それとなく行動を抑えてみてすぐに理解した。

自分からだけじゃなく、彼女からも近付いてきてくれていることに。

それを、ナツは単純に嬉しいと思っていた。その理由すら考えないまま受け入れて、自分とルーシィの、あるべき距離なんだと納得していた。
少しだけ振り返って確認すると、ルーシィもナツを見返して、ん?と首を傾げた。瞳が笑って、映った自分も笑う。

「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
「あい!」
「やれやれ」
「絵画か、ギルドに飾るのも良いな」

五人は連れ立って会場の中に入った。白いパーティションで仕切られた迷路のような内部には、タッチの異なる絵が何枚も飾られている。その下に小さく説明文と値段が貼られてあった。
客の入りは上々のようで、一枚一枚の前に一人二人は必ず居る、という具合だった。ナツは順路の最初にあった風景画を一瞥して、きょろりと辺りを見回した。

「あ、あれ。食いモンの絵だ」
「ホントだ。魚の絵、あるかな」
「ちょっとアンタら…」
「まあいいじゃねぇか、先行かせてやろうぜ。うっせえし」

ナツとハッピーは他の三人を置いて、目当ての絵のところまで進んだ。途中、ちらちらと値段を見ながら眉を寄せる。

「すげえ額だな」
「あい…エルザ、ホントに買う気じゃないよね」
「わかんねえぞ、エルザだし」
「オイラどれかねだってみようかな」

果物の描かれた静物画を前に、ナツはくん、と鼻を鳴らした。

「面白くねえな、絵なんて。匂いもしねえの…てか、絵の具か?なんか油臭え」
「そりゃあ、絵だし」
「人の絵が多いな」
「魚の絵はどこだろ」

振り返ってみると、グレイとエルザがゆっくりと移動しているところだった。ルーシィは殊更じっくりと絵を眺めているようで、その金色の頭はこちらを向かない。気に入らなくて、ナツはむ、と唇を突き出した。

「もうちっと先に行ってみっか」
「あい」

そうすればルーシィも寂しくなって来てくれるかもしれない。

自分が寂しいことには目を向けずに、ナツは彼女を試すように奥へと足を踏み出した。






付いて来いよ。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -