ナツ達が部屋に入ったときは洗面所に居たルーシィは、二人がソファに落ち着いているのを見つけて頬を引き攣らせた。
「おっす」
「おはよ」
「おはよう。じゃなくて!何してるの?」
「見てわかんだろ、寛いでる」
「帰れ!」
「まあまあ」
いつものやり取りを軽く手で制して、ナツは立ち上がった。片足をローテーブルに乗せて、ほつれを見せる。
「これ」
「え?何、穴開いたの?」
「うん。直してくれ」
「ええええ?良いわよ」
「ルーシィ、なんで今『えー?』って言ったの」
「つか、直せんの?」
「アンタ、頼んでおいてその言い草何よ」
ルーシィは腰に手を当てた。
「そのくらい出来ますよーだ!」
「やっぱ躾けとかされてんの?」
ルーシィはお嬢様だったときのことをあまり話したがらない。嫌なことを思い出させるのでは、と思ったのだが、
「はあ?」
ルーシィは何のことかわからない、と言うようにきょとん、と目を丸めた。瞬きを三回して、ぱたぱたと手を振る。
「ああ、うちはそんなの無かったわよ。父親は家事なんてしないで帝王学を学べってスタンスだったし。あたしはむしろ、自分のことは自分でやりたかったから、こっそり教えてもらってたんだ」
「ルーシィ、昔から言うこと聞かないんだね」
「どういう意味かしら?」
嫌々身に着けさせられたものではないらしい。それどころか、反発して隠れて学ぶとは。
さすが、家出するような娘だ。
ルーシィらしくて、ほっとして。ナツは歯を見せて笑った。
「んじゃ、直してくれ」
「はいはい、そこ座って」
指されたソファに大人しく座ると、ルーシィは引き出しの付いた木製の箱を持ってきた。その中からきらりと光る針を取り出して、手際よく白い糸を通していく。
「ほー」
針仕事を見るのは初めてだった。ミラジェーンにやってもらうときは、いつも預けて、その間邪魔しないようにどこかに行っている。
ナツは足を曲げて開いた穴を確認した。これが今から、ルーシィによって塞がれる。
と、そこでようやくパンツを渡さなければならないことに思い至った。
ギルドでは無いため代わりの服があるわけではない。タオルでも貸してもらおうと口を開いた、が。
「なあ、」
「動かないでね。刺すわよ」
「へ?」
ルーシィはソファの前に跪いて、ナツの足を下ろさせると裾のリボンを解いた。くるりとほつれたところまで捲って、ちょい、と摘む。
「え、」
「刺して欲しいの?動かないでってば」
どうやら着たまま縫えるらしい。
ちらりと寄越した視線が幾分本気の光を湛えていたので、ナツはパンツを引っ張っていた手を離した。拍子に、ポケットの紙袋がかさりと音を立てる。
「あ、ミラからお前に渡せって言われてたんだ」
「ミラさんから?後で見るから、そこ置いといて」
ナツはルーシィの構える針先を見つめながら、足を動かさないようにそろそろと紙袋をテーブルに置いた。