ルーシィはちょいちょいと布を整えると、迷いなく針を刺した。すい、と突き抜けて腕を引き、またすぐに針を潜らせる。
ハッピーが感嘆の声を上げた。
「へえ。ホントに出来るんだ。すごいね、ルーシィ」
「すごいって……大したことないわよ、これくらい」
針と糸はするすると布地の裂け目を埋めていく。
10秒ほど経ったところで、ルーシィが顔を上げて苦笑した。
「見すぎじゃない?」
「だって面白ぇもん」
「あい」
色の乗った爪の間で、きらりと光る針がまるで生き物のように動く。
ナツはじっとそれを見つめた。
「オレ、いっつも壊す専門だからよ」
「あ、自覚あるんだ?」
「うぐ。ま、まあそれでも良いんだけど」
「直す気ないんだ」
「うっせ。だからさ、修理できるってすげえと思うんだよ」
ナツの目に映るのは、覗き込むハッピーの後頭部と手元に集中するルーシィ。
彼女は顔を上げないまま、針を動かしていく――。
「ルーシィはすげえな」
「何言ってんだか」
ナツは視線が向かないのを良いことに、さらに言葉を重ねた。
「頼りにしてる」
金髪がふるりと揺れた。
「…うん。あたしも、頼りにしてるから」
ルーシィの声は落ち着いていて、それでいて甘く溶けるようで。
まるで、魔法のようだった。
どきりと跳ねた鼓動は喜びを伝えるだけじゃなく、ナツを奮い立たせる。
がんばらないと。
ルーシィにもっと認めてもらえるように。ルーシィともっと一緒に居るために。
「燃えてきた」
小さく呟いて、ナツは拳を握った。ルーシィの手元から顔へ、視線を移す。
下を向いた伏し目がちの瞳からは、表情が読み取れない。
――睫毛、長ぇな。
ルーシィがとても、綺麗に見えた。
「見すぎだって」
「へっ!?あ、いや、」
「ん、できた」
「え、もう終わりか?」
びっくりするほど残念そうな声が出た。
ルーシィは小さなハサミで糸を切ると、具合を確かめるように布を引っ張った。満足そうに頷いて、裾を戻す。
「はい、終了」
「ありがとな」
「どういたしまして」
テーブルの上に移動したハッピーが、紙袋を見て思い出したように言った。
「ねえルーシィ、将来服屋さんになるつもり、あるの?」
「はい?ないわよ」
ルーシィはなんで、と言うように首を傾げた。
「あたし作るのはやったことないし。せいぜい自分の服とか…結婚したら家族の服を繕うくらいかなあ」
「「あ」」
予行演習って、それのか。
同時に声を漏らした相棒と目が合う。どうやら同じ答えに行き着いたようだ。
ルーシィは自身の思い描く『将来』に身体をくねらせた。
「ああ、でも、子供の服とか作れたら楽しそうよね」
「オイラの服、作っても良いよ」
「なんで上から目線!?」
「ハッピー、抜け駆けはずりぃぞ」
ナツはハッピーの風呂敷を指で引っ掛けて、ぶらん、と宙に吊った。
かたかたと箱に糸や針をしまう彼女に呼びかける。
「なあ、ルーシィ」
「なあに?」
「また頼むな」
ルーシィは手を止めて、
「うん」
綺麗に微笑んで、頷いた。