「お、い…今、なんて」

舌が震える。それにも動揺して喉を鳴らした。頬の内側がむずむずとして、急激に唾液が出てくる。

オレ、が、ルーシィの、こと?

考えてもみなかった。自分にとって、恋愛は他人事で遠い感情だと思いこんでいた。不意を突かれたどころの騒ぎではない。
動転して二の句すら告げられないナツに、真後ろから声がかかった。

「ナツさん」
「ふきゃああ!?」
「きゃあって言った!?」

反射的に飛び上がったナツに、ぞっとしたようにグレイが後退る。しかし声の主――ジュビアを見て、眉を顰めた。

「もしかしてお前、ナツにヘンなこと吹き込んだんじゃねえだろうな」
「いいえ。ジュビアはそんなことしてません」

気配を全く察知できていなかった。ただの注意不足だろうが、ナツはバクバクと跳ね回る心臓を片手で押さえた。涼しげな水色の髪を見て、伝えるべきことを思い出す。

「あ、えーと。良かったな、グレイの奴、やっぱそういうんじゃねえってよ」
「ナツさん。ジュビアは、ルーシィがグレイ様を、と言っているんですが」
「は?」
「ナツさんがルーシィを好きならちょうどいいです。頑張ってください。応援してますから」
「んなっ、だっ、オレは別にっ!」

ばたばたと両手を振り回す。途中で誰かに当たったような気がするが、ナツはそれどころではなかった。

「グレイが勝手に言ってんだろ!」

非難するために顔を向けたが、彼は頭を掻きながら乱闘を抜け出ようとしていた。呼び止めようと口を開いて、ナツはばっ、とジュビアを振り返る。

「ちょ、待て!ルーシィが、グレイを!?」
「はい」
「そっ、それこそねえだろ!?」
「なんでですか。グレイ様あんなにカッコ良いんですよ」
「そんなん…!だって、いあ……ねえよ!ぜっってえ、ねえ!」
「じゃあ訊いてみればいいです」
「訊…っ!?……いあ、その……ジュビア?」
「はい?」
「お前、訊いてくんねえ?」
「ジュビアが訊いても否定されるに決まってます」
「で、でも」

ナツはもごもごと口を動かして、壊れた椅子を爪先でつついた。

「オレがそんなこと訊いたら、なんか……気にしてるみてえだろ、ルーシィの好きな奴」
「みたいも何も、気になるんでしょう?」
「なんねえよ!」

ナツは吠えてジュビアを睨んだ。しかし返ってきたのは無言の視線――見透かすようで余計に落ち着かない。
耐えられたのは二秒ほどだった。ナツは左足首を捏ねるように回して、咳払いをした。

「あー、まあ……ジュビアがそこまで訊けっつーんなら、訊かないでもねえよ」
「ジュビア何も言ってません」

マフラーを鼻先まで引き上げながら、ナツはルーシィにどう切り出そうか、それだけを考え始めた。






きゃあ。


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