「また変なモン買ってきたな」
ほくほく顔のドロイに、ナツが顰め面をした。
嫌悪感はないものの、全く理解出来ないと言わんばかりの表情だった。しかしナツならばその反応も頷ける。ジェットは彼を無視して、テーブルに身を乗り出した。
「どこで買ったんだよ」
「へっへっへ」
ドロイは声を潜めて、大通りの裏路地を告げた。
頭の中で地図を広げると、彼は優越感をたっぷり含ませて笑った。
「もう居ねえよ。それにこれは最後の一瓶だってよ」
「け、どうせまた騙されてんだよ」
むっとして、椅子に座り直す。ジェットは頬杖を突いた。
騙されているに決まっている。そんな――
――好きな相手の、服が見えなくなる薬などと。
ドロイはたまにこういう怪しげな商品を見つけてくる。その九割がインチキで、残り一割はガセだ。当たりを引いたことなど、一度もない。
ほぼ間違いないと思うものの、落ち着かなかった。足を小刻みに揺すりながら、ジェットはドロイの持つ瓶を睨みつける。
ナツが半眼で下唇を突き出した。
「そんなの何が楽しいんだか」
「へっ、お前にはわかんねえかもしんねーけどな。ロマンだよ、ロマン!」
「はあ?」
「男の夢を叶える薬じゃねえか!」
「そんなもんで強くなれねえじゃん」
「お前の夢はそれだけかよ!」
ドロイは大袈裟な仕草で嘆いてみせたが、元々どうでも良かったのかアッサリと引き下がった。小瓶を持つ手にぐ、と力を込め、うっとりと目を閉じる。
「まあ、人それぞれだしな。オレはオレの夢を叶えるぜ!」
「ちょっと待てよ」
「あ?」
その薬が本物であるとは思えない。しかし、万が一ということもある。
ジェットはゆらりと立ち上がった。
「誰の裸を見るつもりだよ」
「お前に関係ねえだろ」
「レビィか?レビィなんだな!?」
「バカ!声でけえって!」
ドロイは慌てた様子でジェットをテーブルに伏せさせた。瞳をぎらりと光らせる。
「レビィはお前のモンじゃねえだろ」
「ぐっ……だ、だからってお前のモンでもねえだろ」
「ジェットぉ?」
にやあり、とドロイの口角がゆっくりと上がった。
「オレがなんでお前にも話したか、考えてみろよ?」
「……!」
共犯になれ、ということか。
ジェットは小さく咳払いをした。
「わかった……半分寄越せ」
「ああ?下さい、だろう?」
「てめ……!」
ぎ、と奥歯を噛む。しかしその屈辱は得られる幸福と比べてあまりにも安く思えた。
透明な液体の揺れる小瓶をしっかりと見つめながら、ジェットは口を開いた。
「くだ、」
「うりゃ」
ひゅぱ、とドロイの手からそれが消えた。あまりの早業に目が点になる。
掻っ攫ったナツは片手でぽん、と瓶の栓を抜いた。
「ナツ!?」
ぐびり、と喉が動く。小さな瓶はあっという間に空になった。
「何すんだよ!お前興味ねえんだろ!?」
「面白いかと思った」
「おい!?」
詰め寄るドロイに、ナツがしれっと答える。言葉通りにも取れるが、実は興味あったんじゃないか、とジェットには思えた。健康な男なら、誰だって飲んでみたいと思うはずだ。ナツだって、きっと。
ジェットはテーブルに投げ出された瓶と栓にちらりと目をやってから、彼を見据えた。