「おい、ナツ。お前、誰が裸に見えんだよ」

彼の興味の対象は大体予想が付く。まさかレビィに気があるとは思えないが、一応確認しておきたい。
ナツはジェットの言葉に、迷いなくカウンター席に目を走らせた。肩を少し落として、眉間に皺を寄せる。そのままの表情でギルドをざっと見回して、彼はぽつり、と呟いた。

「グレイ」
「それはオレにも見える」

つまらなさそうに唇を尖らせて、ナツはテーブルに顎を乗せた。

「誰も、ハダカになんてなってねえよ」

ジェットは息を吐き出した。
カウンターにはルーシィがいる。彼女に変化がないのなら。

「やっぱ騙されてたか」
「あーあ、これでもう37回目だ」
「ちぇ、なんだよ。あんな不味かったのに、飲み損じゃねえか」

少し離れたテーブルで、リリー相手にレビィがころころと笑っている。自分を含め、男共の汚して良い笑顔ではない。

これで良かったんだ。

ジェットがほっとして瓶を指先で弾くと、ルーシィの高い声がした。

「ナツ、新しい依頼来てるって!」
「おう!」

さっきまでの仏頂面がどこへやら、ナツは上機嫌で立ち上がった。リクエストボードまでの短い距離を、だかだかと走る。

「オレらも見てくるか」
「そうだな」

面倒くさげに、ドロイが腰を上げる。
レビィが喜びそうな仕事が有れば――。ぼんやりと考えるジェットの目線の先で、ナツがルーシィにじゃれついていた。

「今日は結構たくさんあんな」
「重い!」

ルーシィの両肩にナツが体重をかける。後ろから抱きついているようにも見える格好だが、彼女は慣れているのか、口調にそれを気にした色はなかった。ナツの身体に遮られて、ジェットからはルーシィの金髪くらいしか見えない。
これだけ接触できる関係でありながら、薬で裸を見ようなどと滑稽なものだ。それが男というものかもしれないが。
ナツは元気に、依頼書の一枚を指差した。

「よっし、じゃあこれ!」
「んー、まあ良いか。近いし、すぐ行けるもんね」

ちらりと詳細を見れば、確かに彼女の言う通り、近場だった。今日のギルドは少し静かになりそうだと思って、ジェットは他の依頼書に目を走らせる。
ナツがつい、と視線を下げた。

「……着替えてくるだろ?」
「は?」
「んな格好で行くのか?」
「へ?どっかおかしい?」
「どっかって……全部おかしいだろ」

お互いに不可解だと言わんばかりの表情で、ナツとルーシィは見つめ合った。食事付きの依頼を探すドロイの横でジェットが首を傾げると、ナツは困ったような顔で頬を掻いた。

「どうしてもそれが良いってんなら、せめてもうちょっと色気ある方が良いんじゃね?」
「はあ?」
「上はともかく、そのパンツはガキっぽいだろ」
「はああ!?」

……ああ、そうか。服だけか。

下着は見えるらしい。スカートを押さえて無駄な抵抗をするルーシィに、ナツが更に言い募る。

「つか、なんでアレ履かねえの?ほら、奥にあった、あの」

言い切らないうちに、ごふ、と桜色が宙に散る。
ドロイは会話を聞いていなかったようで、驚いた声を上げながら後退った。

「な、なんだよ、突然…」
「……まあ、ルーシィだから」
「ああ、ルーシィだからか」
「何よ、アンタら!?」

涙目のルーシィから距離を取るように、ジェットはドロイを引っ張った。薬が半分本物であったことを、知られるのはまずい。ドロイはナツとは違って下着姿でも興奮できるに違いない。いや、平然としているナツがおかしいのだが。

「行こうぜ」
「おう」

ルーシィが可哀想にも思えたが、ジェットはレビィを守るために、事情の説明を放棄した。ナツも見捨てることに他ならないが、それはそれ、一人良い思いをしているのだから同情しきれない。

「ぅう…あにすんだよ、ルーシィの乱暴者ー!」
「復活早いわね!?」
「ちょ、お前…あんま動くと零れんじゃねえか」
「何が!?」
「……なあ、ドロイ?あの薬、どこで手に入れたって?」

ジェットはもう一度頭の中に地図を広げて。

背中で、ナツの踏まれる音を聞いた。






さりげなく他の男からは隠してやったのに。
お付き合いありがとうございます!


戻る
main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -