心のプレゼント






がたん、がたがた。

いつもの乱闘が終わって、やれやれと――皆がテーブルや椅子を片付け始める。飛び交うジョッキやフォークから身を守るため、鍋をかぶってカウンター内に避難していたルーシィは、安全を確認してから恐る恐る身を起こした。

「ったく、もう」
「ふふ、大丈夫?ルーシィ」
「はい…ってミラさん!血ぃ出てる!」
「あら……ああ、大丈夫、これケチャップよ」
「うわ、それはそれで大変……」
「着替えてこなきゃね」
「ルーシィ!」

がたん、とカウンターに桜髪の魔導士がぶつかってくる。その勢いに押されてルーシィが一歩後退ると、彼はそれを追うように片足をスツールに乗り上げた。牙を見せて、にっ、と笑う。

「ルーシィ、勝ったぞ!」

壊れた椅子をラキに渡していたグレイが、ナツの言葉を聞きとがめた。

「んなわけねえだろ、オレの勝ちだ!」
「ああ!?」
「ちょ、もう止めてよ」

向かっていこうとしたマフラーを引っ張る。「ルーシィ、ナイス!」「そのまま押さえとけ!」と仲間達から賞賛を受け、ルーシィは項垂れた。

「あんたって猛獣みたいよね」
「じゃあルーシィは猛獣使いだね」

いつの間にかカウンターに降り立ったハッピーが、がうがうと両腕を振り回すナツと、片手でそれを止めている彼女を見比べた。

「……なんて怪力」
「違うでしょ!?ナツが本気じゃないのよ!」
「ぐうおおおお!なんで前に進まねえんだ!」
「変な芝居すんじゃないわよ!?」
「ルーシィ、すげえ……」
「素手で滅竜魔導士を止めるとか」
「ドラゴンより力が強いってことか」
「違うからっ!」

これ見よがしにひそひそされる会話に乙女のプライドが揺らぐ。マフラーを放すと、ナツはご丁寧に頭から勢い良くこけた。

「やっぱり…」
「俺、ルーシィ怒らせないようにしよう」
「ちーがーうっ!」

得られない正当な評価に、ルーシィは地団駄を踏んだ。涙目でカウンターの上を見やって――はた、と気付く。

「あれ……うそ」
「どした?」
「ここにあったペンは?」
「へ?」

愛用のペンがない。
乱闘の前、ナツ達と会話していたときには間違いなく、そこにあったはずだった。証拠に、使っていたメモ帳はカウンター内に落ちている。
ぺたぺたと何もないテーブル上を触るルーシィに、ナツとハッピーが首を傾げた。

「ペンって……ああ、確かなんか書いてたな」
「なんだっけ?」
「地図よ!あんたらが知りたいって言ったんじゃない、大聖堂近くの魚屋!」
「ああ!…って、それどうしたっけ」
「グレイに喧嘩ふっかけるときに燃やしてたわよ」
「お……おお」

ナツはさっぱり覚えていないのだろう、頷きはしたが目が泳いでいた。しかしそんなことはどうでもいい。ルーシィはもう一度乱闘前の行動を思い返した。カウンターを出て辺りの床を探してもみたが、それらしき物は落ちていない。






イタズラの為に全力で演技。


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