「やだ、あれ大切にしてたのに!」
「カバンに入れてたってオチじゃないよね?」
「そんなわけない!絶対…さっきまで使ってたんだもの!」
言いつつ、一応バッグを漁る。やはり、入ってはいなかった。
「燃えちゃったのかしら……」
「え、あ……悪ぃ」
「オイラ達、新しいの買ってくるから許して」
「……良いわよ、そこまでしなくて」
高価な物ではなかったが、手に馴染んで使いやすかった。自然と頬が膨らむ。
ナツとハッピーが顔を見合わせた。
「やっぱ買ってくる!」
「良いってば」
「買わせてよ!」
言うが早いか、二人はギルドの出入り口へと駆け出した。その後姿を見て、戻ってきたミラジェーンが首を傾げる。
「どうしたの?」
「聞いてくださいよ、ナツがあたしのペン燃やしたんです」
「ペン?」
「別に良いって言ったんですけど、代わりの買ってくるって」
「追いかけなくて良いの?」
「少しは反省してもらわないと」
ナツは自分の感情に素直すぎて、周りが見えないことがある。今回のように、喧嘩に夢中になると壊した物などいちいち覚えてすらいない。
スツールに腰掛けて、ふう、と溜め息を吐くと、ミラジェーンは困ったように笑って右耳を人差し指でとんとんと示した。
「へ?」
彼女に倣って、自分の耳を指先で追う。触れた硬い質感に、ルーシィはぎくりとした。
「あ……」
「追いかけなくて良いの?」
ミラジェーンはもう一度繰り返して、柔らかく微笑んだ。
かたん、と静かに立ち上がって、ルーシィはごちる。
「なんであいつらも気付かなかったのよ」
右耳に挟んでいた、愛用のペンを握り締めて。
桜色と青色は、彼らには不釣合いな可愛らしい雑貨屋に居た。通りに面した窓にその姿を見つけて、ルーシィは半笑いになる。
「もっと普通の文具店、あるのに」
店内には若い女性客ばかりで、二人は――主にナツが――浮いている。ちょっと面白いもの見ちゃったかも、と呟いて、ルーシィは気付いた。
「あ、そっか。この店……」
以前、ハッピーがシャルルへのプレゼントの話をしているときに、この店を紹介した覚えがある。女の子の喜ぶような物が多いのよ、と。
緩んだ口元をそのままに、ルーシィは店の扉を開けた。カラン、とドアベルが鳴るが、彼らは目の前に集中しているのかこちらに気付く気配はない。
「これなんかどう?」
「もっとルーシィらしいのがいいんじゃねえか」
「ルーシィらしいの?」
「んー……コスプレみたいな?」
「どんなのよ、それ?」
あまりの会話に思わずツッコむ。二人が同時に振り返って、目を丸くした。
「ルーシィ!」
「ごめん、ペン、あった」
「へ?」
「耳に挟んでたの。ホント、ごめん」
「えー」
咎めるような視線に、バツが悪くて目を逸らす。しかし二人が気にしていたのは失せ物の顛末ではなかった。
「せっかく面白いペン選んでやろうと思ったのに」
「だよねー、残念」
「……なんかちょっと怖いわ」
追いかけてきて良かった。心底そう思いながら、ルーシィはハッピーを抱き上げて扉に足を向けた。