「る、ぅ」
「うん、ここに居るよ」

優しい声が胸に痛い。
駄々っ子のように頭を振ると、ふにゃ、と柔らかい物が当たった。

「ここに居るから」
「っ、…ぅ」

ぐちゃぐちゃの視界には、タオルとルーシィの足らしきものが映っている。泣いているナツのために、跪いて抱き寄せてくれた――。それがわかっても、ナツには嗚咽を漏らすことしか出来ないでいる。
もう一度、無駄だと知りながら袖に涙を染み込ませた。ルーシィは背中をゆっくりと、上下に撫でてくれる。

「んあ…うっせえなあ」

ベッドの上で、グレイが面倒くさそうな声を出した。
ぐ、と唇を噛む。ルーシィを、グレイに返さないとならない。
しかし身体がそれを拒否して、腕がルーシィの背中に回った。縋り付くように抱きしめながら、ナツはぐずぐずと鼻を鳴らして。

ルーシィの声を聴いた。

「なんでグレイまで居るのよっ!?」
「……へ?」

ルーシィが振り返った反動でか、大きな水風船が頭の上にバウンドした。衣擦れの音がして、グレイが身を起こしたのがわかる。
ナツは恐る恐る手を離した。濡れたままの顔を上げると、ルーシィは後ろのグレイに向かって目を丸くしていた。

「何やってんの!?」
「あ、上がったのか。風呂長ぇから待ちくたびれちまったよ」
「ちょっ、は、バババ、バカ!!なんで何も着てないのよ!?」
「おわっ…ああ、悪い。オレ、寝るとき無意識に脱いじまうんだよな」
「アンタは寝ても覚めても脱いでんでしょうがっ!どうしてくれんのよ、あたしのベッドー!!」

グレイを見ないようにか目を逸らしたまま頭を抱えるルーシィの横で、ハッピーが手を打った。

「わかった!ナツ、布団にグレイが寝てたのが嫌だったんでしょ!」
「あん?ハッピー?なんだ、お前らも居たのか」
「オイラ達も寝るもんね、このベッド」
「あー…、あんた、ホントあたしの部屋好きね」

ナツは何も聞いていなかった。絶望が消えて空いた穴に、急速に安堵が広がっていく。

良かった――本当に良かった。

今度は違う感情で、じわりと涙が浮かぶ。
ルーシィはナツに対して、安心させるように優しく笑った。

「大丈夫よ、ちゃんと洗濯するから」
「おい、オレが汚いみたいじゃねえか」
「あたしに全裸の変態が寝てた布団で眠れと?」
「いあ……そう言われるとなんかアレだな」
「顔を赤らめるな!」

ナツは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。安心したものの、目まぐるしく変化した心の動きに身体がついていかない。力と気が抜けるのに任せて、ナツは床に仰向けになった。

「はー…」
「ナツ?」
「疲れた」
「あたしの方がよっぽど疲れてるからね?忘れてたけど、また勝手に部屋に入って!」
「ルーシィはナツに憑かれてます、あい」

その言葉に、頬が熱くなった。慌てて転がって、うつ伏せの状態で顔を隠す。

グレイのことは誤解で。でも、自分はルーシィが好きで。
それは誤解でも誤認でも、なくて。

「憑くって…そんなんじゃ、ねえし」

もごもごと試みた反論は誰にも取り合ってもらえなかった。ルーシィがわかりやすい溜め息を吐いて立ち上がる気配がする。

「全く、いつも来るの、いきなりなんだから」
「つかよ」

ナツからは見えない。が、声の感じで、グレイがどんな表情をしているのかは大体予想できた。

「ルーシィ、お前着替えて来いよ。ナツから見えそうだぞ」
「へっ!?」

思わずルーシィに視線を向ける。
彼女はグレイの言葉に反射的にタオルの裾を押さえていて、残念ながらこれっぽっちも見えなかったのだが。

「サイッテー!!」

ルーシィには見ようとしたこと自体、アウトだったらしい。
顔どころか全身真っ赤に染めて、テーブルの上に置いてあった鞭を掴んだ。

「…え」
「お、待て!オレはちゃんと用事があって、」
「ギルドで聞くわ!」

ひゅん、としなったそれは、パンツ一丁のグレイとナツを窓から外へ追い出した。
べし、と地面に落ちた二人の上に、ひらひらとグレイの服が投げ落とされる。

「ハッピー、布団の洗濯手伝って!」
「あい、女王様!」
「誰が女王様よ!?」

部屋から聞こえる、威勢の良い掛け合い。

ナツの好きな――ルーシィの、声――。

今までのナツの日常に必ずあったそれにさえも、とくとくと胸が高鳴っている。

「どうすっかな…」

リンゴをかじってしまったら、もう前と同じではいられない。

ナツは追い出された楽園を見上げて。
慌てて服を着始めた全ての元凶に足払いをかけた。






ナツ自覚・セクシーグレイ編。セクシーグレイ編(大事なことだから二回)
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