グレイが優しく笑って、ジュビアの頭に手を置いた。
「よくがんばったな」
「はわわ」
「ルーシィ、オレはー?」
きらきらとした目で、ナツがルーシィを見上げる。彼女は目線を合わせて口を尖らせた。
「勝手にどっか行くんじゃないわよ、心配するでしょ」
「ちぇ」
「ちぇ、じゃない」
逸れた子供も不安だろうが、親だって心中穏やかではいられない。きっと、懸命に捜しているだろうに。
「ここで待ってなさいって言ったわよね」
「でもよ」
「居なかったら何かあったのかって思うでしょう?せめてどこに行くって書き残すとか」
「面倒くせえ」
ルーシィはナツのツリ目がちの瞳を覗き込んだ。
「ごめんなさいは?」
「は?」
「ごめんなさい、は?」
ナツは目をぱちくりした後、ルーシィに引く気がないことを悟ったか、諦めたように口にした。
「…ごめんなさい」
「よく出来ました」
ルーシィは素直に謝れたナツをぎゅ、と抱き締めた。ぽんぽん、と頭を撫でてやる。
もう戻れない過去に、自分もこうされたことを思い出す。怒られた後はたっぷりの愛。そうやって、自分は育ってきた。
いつか、自分に大切な子供が出来たら、受けた以上の愛情を注いでやりたい。
ルーシィはにっこりと笑った。
「さ、じゃああの子をターゲットに返さないとね」
ナツがこくり、と頷いた。しかし身体を離そうとすると、ぐ、とベストを掴まれる。
「お前さ、オレが誰だかわかってんだよな?」
「ナツでしょ?何言ってんの?」
「…ならいい」
「ん?どうかしたの?」
「んん」
ナツはゆるりと首を振って、きゅ、とルーシィに抱きついてきた。短い腕とその仕草が愛おしくて、彼女も微笑みながら応じてやる。
桜色の髪が、柔らかく揺れた。
「いいなー、オイラもー」
「うん?」
ナツの頭を踏みつけて、青い猫がルーシィに腕を伸ばしてきた。小さな手が彼の風呂敷を引っ張る。
「ハッピーは何も謝ってねえだろ!」
「ごめんね、ルーシィ」
「何がだよ!?」
「はいはい、また後でね」
騒ぎ始めた二人の頭を撫でて、グレイとジュビアを振り返る。彼女は幸福感に目を回したのか、ふらふらしていた。
ハッピーが元気良く手を上げる。
「じゃあオイラ、また探してくるよ!」
「オレも行く!良いよな、ルーシィ」
「うん、気を付けてね」
「うわ、ナツ軽い!」
「頭が?」
「グレイ、てめえ!」
喚くナツを連れて、ハッピーは随分と上空に飛んでいく。それに一瞬だけ疑問を持ったが、ルーシィはすぐに納得した。
「あ、そっか。ナツ、目ぇ良いもんね」
「ルーシィ」
ジュビアが眉間に皺を寄せて、彼女に手を差し出した。
「ジュビアの服、返して」
「服?」
「ちょっとずつ、戻ってる」
少しずつではあるが、見る間に身体が成長していく。ルーシィが慌てて預かっていた服を渡すと、ジュビアは急いで物陰に走っていった。
「そっか、もう一時間くらい経つのね…って」
ルーシィは荷物の中の、もう一人の服を見て固まった。恐る恐る、空へと目を移す。
視線の先で、羽の生えた人影が縦に伸びていくのがわかった。
「おい、アイツ…服」
「…グレイもね」
ハッピーが肌色の何か――ルーシィは考えるのを放棄した――を落とした。