注意!同性愛者出てきます!
ルーシィがバスルームから出ると、部屋には我が物顔で居座る2人と1匹がいた。
「なんでいるのよー!?」
折角の良い気分が殺がれ、ナツとハッピーにブラジリアンキックを叩き込むと、ついでにしわしわになったプルーをグレイの顔面に投げつけた。
「うぉ!?」
刺さるように投げなかったのはせめてもの良心。
手加減が行き過ぎたか、バスタオル一枚のまま肩で息をするルーシィに、ナツ達はたいしたダメージも受けていない。
「なんだよルーシィ。ハレンチだな」
「ハレンチ!?」
「ルーシィ、お前…」
「いや、ちょっと!グレイまでなんでそんな目で見てんのよ!?」
「ふしだらです」
「何がよ、バカ猫!?」
「まぁ冗談はおいといて」
「あああああ、きっとこれが恨み骨髄に徹すってやつなのねぇええ」
ぎりぎりと歯軋りまでしそうなルーシィを、グレイがまぁまぁ、いいから着替えて来いよ、と抑えた。
「ちゃんと用があって来たんだって」
グレイが以前仕事をした依頼主が、もう一度護衛をお願いしたい、とグレイを指名してきたらしい。しかしグレイはその日マスターからお使いを頼まれていて…
「で、代わりにナツを紹介したらしいんだけどよ。どうにも気がかりなもんで、ついてってやってくんねぇかな」
「?マスターがナツを選定するくらいだし、破壊の限りを尽くすことくらい想定されてんじゃないの?」
「んー、まぁそれはそうなんだけど」
「さらっと酷いこと言ってねぇか、お前ら」
「でもナツが仕事行って破壊しないなんて…」
「「「ありえない」」」
訓練でもしたのか、というくらい綺麗なハモりにナツは半眼のまま押し黙った。
「壊すのはいいんだけどよ、ナツが壊される可能性があるんだわ」
「へ?」
「それ、さっきから言ってるけどなんなんだ?」
ナツが不思議そうに小首を傾げる。ルーシィも倣ってグレイを見上げると、彼は苦虫を噛み潰したような表情でルーシィに耳打ちした。
「依頼主がな…男色家なんだよ」
「だ…」
ダンショク。暖色。男色。
「ほ…本当に?」
「マジで。今回の指定だって『腹筋の強い男魔導士』だもんよ」
ぐったりと疲れたように言葉を告げるグレイ。
「え、ちょっと待って。まさかグレイ…」
冷や汗が背中を伝う。先方はグレイを指名。もう一度。もう一度。
言外の疑念が伝わったのか、グレイは顔を青くして弁解した。
「ちっげぇよ!!前ん時はジュビアと一緒だったから逃れられたんだよ!でも座ってれば膝に手を乗せてきやがったり、ちょっと後ろ向いてるときに腰の辺り触ってきたり!」
「うあ…」
思い出したのか涙眼のグレイ。
ぞっとして後ずさると、後ろにいたナツにぶつかった。
「ダンショクってなんだよ?」
きょとん、とこちらを見る、邪気のない目。
可哀想なものでも見るような目で一瞥し、グレイに視線を戻した。
「で、グレイはナツが心配だ、と」
「だってよ…。そのまま送り出したらナツとはいえ見捨てるようなもんだろ?なんかあったらコイツでも完全トラウマになるぞ?頭悪いし、そういうことに鈍感なんだろ?」
「な、ななななんであたしに聞くのかしら?それにナツだって、いざとなったら殴ってでも抵抗するわよ、きっと」
「いや、殴っちゃだめだろが。それに結構凹むんだぞ、ああいう対象になるってのは」
言ってげんなりして溜息を吐く。そうとう辛かったようだ。
ルーシィも初めて痴漢に追いかけられたときの経験を思い出す。性の対象になるということが酷く怖くて、返り討ちにしようと考え付くことすらできなかった。
「ルーシィ、オイラシャルルと翼を使った仕事しなきゃならなくて、一緒に行けないんだ…お願いだよ」
「ルーシィだったらナツを守れるだろ?」
グレイの言葉に多少赤くなりながら、グレイとナツを交互に見て覚悟を決める。
ついて行かないという選択肢など頭の中には無かった。
「わかったわ…ナツの護衛、引き受ける!」