「そう言えばそんな話聞いてたよな」
ピシリと地面を削る鞭。
ナツはごちて、相手の攻撃に備えて腰を落とした。
羽を広げたハッピーが、ナツの上空から非難の声を落とす。
「そうだよ!だから触れないようにって言ったじゃないか!」
「オレに言われてもな」
「ルーシィに言ってるんだよ!」
「だそうだぞ、ルーシィ」
言ってはみたものの、光の失せた瞳には何も映っていない。
ナツは舌打ちして、彼女の後ろ――3メートルくらい離れたところにいる魔導士を睨み付けた。
接触した相手を操る魔法――。
触れさせなければ、以前戦った悪魔の心臓の奴よりも倒すのは楽だろうと思えたのだ。
しかし蓋を開けてみれば、敵にその魔法を使ってくる気配はなく、魔法のアイテムを惜しげなく使っての遠距離攻撃と防御オンリー。
気が短いナツはもちろん、ルーシィも攻撃に頭がいっぱいになってしまい、一気に距離を詰めて――。
その結果が、これだ。
「よりによってルーシィってのもな」
「オイラ、ジャージ着ていけばって言ったのに」
ばさり、とハッピーがナツの横に下りてくる。対峙するルーシィは無表情で、人形のようだった。
この魔法は、操られた人物が接触した相手も、同様に操ることが出来るらしい。
ルーシィは普段通りの格好で、肌の露出が多い。不用意に取り押さえれば、どこに触れるかわかったものではなかった。
「腕は布のとこだけ、腰はアウト。足が一番安全か」
ルーシィの身体を観察して、ナツは呟いた。彼女の横を抜けて魔導士を、とも思うが、それでは挟み撃ちになる。
先にルーシィ。
半身になって構えると、ナツの呟きを拾ったか、魔導士が笑った。
「ふん、甘いな」
「ああ?うっせえな、すぐ殴ってやっから黙っとけ」
「こんなことだって出来るんだからな」
「だからうっせ……え?」
魔導士が顎をしゃくったと同時に、ルーシィがアームウォーマーを取り去った。
ぽいぽい、と地面に投げ、迷いなくベストも脱ぎ捨てる。
するり――。
背中があらわになったかと思うと、すぐに今度はチューブトップに手がかかった。
二つに結んだ金髪が、ふわりと広がる。
「おお?」
ルーシィは次に身を屈めて、片方ずつゆっくりブーツを、そしてニーハイソックスを脱いでいく。無造作に上げられた足が次第に素肌になっていくのを、ナツは口を開けて眺めた。
「…?ナ、ナツ?止めないと」
「ああ、そーだなー」
「棒読み!?」
確かに服を脱がせてしまえば、難易度は格段に上がる。
ルーシィはスカートのファスナーを下ろして、下着姿になった。ついでのようにぴょこん、と跳ねて、胸を揺らす。
ナツは眉根を寄せた。
「どうすっかな」
「オイラがやっつけてやる!」
動かないナツに痺れを切らしたように、ハッピーが叫んだ。
「ハッピー、待て!」
「待たない!ナツのエロバカー!!」
声を気合に変えるかのように、魔導士へ一直線――。
しかしその背中に、
「ぎゃふ!」
ルーシィが容赦なく鞭を打った。
星の大河は伸縮自在――自慢げに話していた彼女の顔が、小憎たらしく思い出される。
ルーシィの向こうに転がったハッピーは、地面に倒れて動かなくなった。
「ルーシィ!何すんだ!」
「無駄だ、意識はない」
「くそっ」
ルーシィは鞭を構えて黙ったままナツを見据えている。
少し待ってみたが、敵はナツが攻撃態勢に入ったと見たか、これ以上脱がせるつもりはないらしい。
「…くそ」
もう一度毒づいて、ナツは打開策に考えを移した。
自分の魔法は捕獲に向かない。素手で直接捕らえるしかなかった。
「こういうのはグレイの方が向いてんだよな……いあ、アイツに出来てオレに出来ねえなんてことはねえ!」
ナツはルーシィをまじまじと見た。素肌以外の部分は少ない。狙うのは得策ではない。
安全なのは、武器である鞭。
あれでぐるぐる巻きにしてしまえば。
小さく一歩踏み出すと、ルーシィの鞭が高速でしなった。