「速ぇ…!」
それでも集中して、ナツは三撃目でなんとか鞭を掴んだ。しかし逆にぐるりと手が絡めとられる。
「ぐぬ!」
力勝負なら女のルーシィに負けることはない。
引き寄せるようにして、まずはその華奢な腕に鞭を巻こうと手を動かしたとき――ルーシィが傾いた。
「ふぎゃ!?」
手に余るほど大きな、弾力の塊。喉がおかしな音を立てた。
どか!
足蹴り一発。
隙だらけだったナツは地面を転がって咳き込んだ。踵にしっかり体重の乗った一撃に、普段ルーシィが手加減していたことを思い知らされる。
「くっそぉ…」
手のひらに残る、下着越しの感触。
魔導士が半眼になった。
「どうしてそこを掴むんだ。腕を掴ませようとしたのに」
「……」
にぎにぎしながらマフラーを片手で外す。ナツはその片側を持ってぶんぶんと振り回した。
「へへーん、ルーシィ、いくぞ!」
リーチは決定的に星の大河に及ばない。加えて、ルーシィは鞭の扱いに長けている。
分が悪いどころではなく、勝負にさえならないことを、ナツはよくわかっていた。
「よっ!」
身体を回転させて放ったマフラーは、予想通りルーシィに軽く避けられた。風に乗ることもなく、ぱさ、と地面に落ちる。
間髪入れずに彼女が仕掛けた攻撃を、ナツは後ろに退くことでかわした。
出来るだけ小さく。ぎりぎりを狙って、引きつける。
魔導士は好機と見て取ったか、ルーシィを前に進めた。ナツはこっそりと口角を上げて、わざと鞭を食らってやる。
「くっ!?」
攻撃と思われたそれは、ナツの右手首にぐるぐると絡んだ。
倒すよりも操ってしまった方が確実だと判断したのだろう。
さっきの二の舞にならないように踏ん張って、ルーシィとの距離を出来るだけ取る。
数秒力比べした後、ナツは大声で叫んだ。
「今だ!」
「あい!」
「なに!?」
相棒が呼びかけに呼応する。
敵の足元まで移動していたハッピーは、ナツのマフラーを魔導士の足首にぐるりと巻きつけて、翼を出した。
「うああ!?」
「よっし!」
持ち上げられた魔導士が、宙吊りになって悲鳴を上げる。
片腕でガッツポーズをとると、空から睨みつけられた。
「まだだ!」
「させねぇよ!」
ルーシィがこちらに手を伸ばすよりも早く、ナツは鞭を掴んだまま彼女の周りを回った。
「うりゃ!」
ぐるり、と一周して、動きを封じる。これで、ルーシィは無事確保できた。
満足して、ぐい、と鞭を引っ張る。それはただの勢いだったのだが、
「よっ…ああああ!?」
ルーシィはナツの力に抗うことなく、倒れこんだ。
慌てて長袖の左腕を細い腰に回し、ナツはルーシィの身体を地面から守る。
どさっ!
「悪い!大丈…」
「…ナツ」
「ぶ、か?」
覗き込んだルーシィの目には、光が戻っている。
この状態でか。
下着姿のルーシィの上に、覆いかぶさるような自分。
だらだらと冷や汗が流れる。
やばい。
背後でハッピーが落とした敵がどすん、と土煙を起こす。その音を掻き消すように、
「きゃあああ!?」
ばちん!
「いってぇえええ!」
悲しい響きがこだました。