「…んー…?」
「同じ大きさだからね!」
「そうかあ?」
本当のことを言うと、ほんの少し、ナツのを大きく作ってある。
虎視眈々と狙う彼のスプーンを阻止して、ルーシィはケチャップを持ち上げた。
「ルーシィも名前書く?」
「食べ物に名前書くとか意地汚ねえな」
「自己紹介ありがとう」
「いっただっきまあす!」
「まあす!」
「聞いてないし!」
大きな一口を頬張って、ナツが幸せそうに唸った。
「んま!」
「口閉じて喋りなさいよ」
「ん"ん!」
「無茶言うね、ルーシィ」
ナツは口いっぱいのオムライスを飲み込んで、ぺろり、と唇を舐めた。
「美味い!ルーシィすげえ!」
「ホント、美味しいよ、ルーシィ!」
「ありがと」
「オレ明日はハンバーグが良い!」
「明日って…うん、ハンバーグね」
「良いのか!?」
「まあ…良いわよ」
「やったー!」
「あいー!」
両手を上げてハッピーと喜ぶ彼は、子供のように騒がしくて、素直で――ナツだった。
「…もう」
呆れたはずの声音は自覚できるほど柔らかい。
(またあたしってばこいつらのペースに巻き込まれてる)
しかし不思議と嫌ではなく、心地良い。
自分の声を聞きながら、温かい気持ちのまま手を動かす。
ケチャップの蓋を開け、オムライスに向けて、
――Nと、綴った。
「っ!?」
直後我に返り、慌ててスプーンで塗りつぶす。
「ふーひぃ?」
びく、と肩を揺らしたルーシィの目には、きょとん、と首を傾げるナツとハッピーの姿が映った。
気付かれて――ない。
「あ…えと、美味しい?」
「ん!」
ナツは即座に頷いた。こっくん、と、音が出そうなくらい、大きく。
そしてルーシィと目を合わせて、にっ、と笑う。
瞬間、熱くてこそばゆいような感覚が走り抜けた。
(あ…)
とくとくと、身体の真ん中で打つ早鐘。
理解は唐突に、無意識の行動に促される形でやってきた。
消してしまった、赤いイニシャル。
(あたし、ナツのこと…)
さっと顔を逸らして、一部だけケチャップが塗られたオムライスにスプーンを刺す。
一さじ口に入れたが、味などわからなかった。
ナツ達は気にした気配もなく、ルーシィの作ったそれを嬉しそうに食べている。
(あたしの、作った――)
耳や首筋が敏感になってしまったのか、空気が痛い。何故だか泣きそうになって、ルーシィはスプーンを噛んだ。
いったい自分はどうなってしまったのか。
戸惑いにちらりと見やった横では――
「…飛んでる」
相変わらず行儀なんて知らない食べ方の彼の周りに、チキンライスやオムレツが撒き散らかされている。
さっきまでの怒涛のような感情が静まって、ルーシィは肩を落とした。
「ケチャップ、付いてるわよ」
「んが?んぐっ、…どこ?」
「じっ、自分で拭きなさいよっ」
「おわっ」
「ルーシィ、それ台拭きだよ」
ナツの顔面にぶつかったタオルを見て、ハッピーが耳を下げた。