二度目の竜巻は建物を直撃するコースだったが、グレイが氷をブロックにして逸らすことに成功した。しかし建物にかすり、倒れた木々が壊れた壁の上に追い討ちをかける。
「くっ…」
ナツは男を捉えたかに見えたが、姿は霞のように消え、数歩下がって現れる。
「先に行けよ」
視線は男に据えたまま、静かにナツが言った。
「あ?何言ってんだよ、お前が」
「いいから行けよ!!」
語気を強くして言い放つ。
グレイは眉根を寄せてまだ何か言おうとしたが、建物の右側が崩れたのを見て舌打ちした。
言い争いをしている場合ではなかった。
「ちっ、わかったよ」
男はグレイには見向きもせず、ナツを見据えて半身になった。
「追わねぇのか」
「理由はわかってんだろ、兄ちゃん」
炎相手の方が組み易しと見たのだろう。ぎり、と奥歯が鳴る。
グレイの方が手強いというのか、自分よりも。
グレイと比較されたことでナツの自尊心が刺激される。
人がどんな気持ちで、グレイを先にやったと思ってるんだ。
「ナツ…」
ナツの殺気にハッピーが怯えた。ゆらり、体の熱で陽炎が揺らめく。ナツは全てをぶつける相手を見つけたように、その眼光を鋭くした。
「悪ぃが手加減なんて知らねぇんだ。せいぜい死なねぇようにな」
「ナツ、それ悪役のセリフだよ」
すぅ、と男の目が細められた。
ルーシィの耳にごごご、と地響きのような物音が聞こえ、
がこっ!
天井にヒビが入り、瓦礫が落ちてきた。転がったまま尖った先端を見て、ルーシィは思いつく。
「切れそうね」
にじり寄って後ろ手に持ち、手のロープに当てる。もどかしいほどの力しか入らなかったが、懸命に擦っているとぱらり、とロープが緩む気配がした。
「やった!」
手が自由になってしまえば足のロープは簡単に外すことが出来た。ルーシィは立ち上がって壁に手をつき、涙の跡を擦る。目は暗闇に慣れ、おおよその物は見えるようになっていた。
部屋には何もない。天井から瓦礫が落ちてきたということは倒壊し始めているのか。物音は床や壁に振動を与えていた。
ルーシィはチームの面々を思い浮かべて溜息を吐いた。
「あいつら…あたしがいること忘れてんじゃないでしょうね…」
落ちてくる瓦礫は段々と大きくなり、天井は鉄骨が見えてきている。
ここももう保たないだろう。
しかしルーシィは知っていた。ここには最強チームで来ている。あいつがいる。絶対、助け出してくれる。いつだって。
ルーシィは息を吸って、力の限り叫んだ。
「ナツ―――!!!」
ぐごぉん!
衝撃に壁が割れた。