「なんでこんなとこにてめぇが居るんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ」

至近距離まで顔を近付けて睨み合う二人の影から、ルーシィは小さく手を上げた。反対側のレビィも諦めたような表情で、ぴ、と手を振り返してくる。
満員とはいかなくとも、劇場にはそれなりに人が入っている。普通の人間なら知り合いを見付ける確率は低かっただろう。
しかし彼らは五感の優れた滅竜魔導士。
場内に入った途端、ナツは迷いもせずに歩き出した。それが鋭い嗅覚によるものだと気付いたときには、もう遅く。

「なんでわざわざ喧嘩売りに行くのかしら」
「ホントにね…」

同じように席を探していたのだろう、レビィはチケットを手に持ったままだった。

「まさかとは思うけど、席どこ?」
「あ、私達のは前売りだから、あっちの方」
「そっか。最悪の事態は避けられそうね。…ごめんね、止められなくて」
「ううん、ガジルも向かってったから」

結局似た者同士らしい。苦笑した後、二人同時に溜め息を吐いた。
迷惑な竜達はお互いに威嚇しながら低く唸り合っている。狭い通路で客達が煩わしそうに彼らを避けた。

「演劇なんて似合わねぇにも程があんじゃねぇか、サラマンダー」
「てめぇの方が似合ってねーよ。オレは出演したこともあるっての」
「話に聞いたがな、それは出演じゃなくて破壊だろーが」
「言えてる」
「ルーシィの裏切り者!」

ナツはむぅ、と唇を突き出した。

「つかマジ胡散臭ぇ。あ、『竜』騎士物語だからか?ぷぷっ、単純野郎」
「そりゃてめぇだろ、単細胞。んな理由で観に来たのか」
「そういやあ、これに竜の居場所とか出て来ねぇかな」
「出て来るわけねぇだろ。作り話に期待してんじゃねぇよ、アメーバ火竜」
「ぇ?」
「あ?…っ!」

レビィの小さく呟いた疑問の声に、ガジルがぎょっとした。彼女の視線から逃げるように明後日の方向を見やる。
しかしレビィは彼の隙を見逃さなかった。

「ガジル?」
「…なんだよ」
「今日来てくれたのって、竜目当てじゃなかったの?」

ぎしっ、と錆びた軋み音が聞こえそうな程、鉄竜が硬直する。ナツがここぞとばかりにバカにしたような目をした。

「なんだよ、やっぱそうなのか」
「違ぇよ!俺はメタリカーナを何が何でも探したいってわけでもねぇし、竜に釣られたりなんざっ」
「じゃあ、どうして?」
「お……面白そうだと思っただけだっ」

ルーシィは息を殺して、そっと手を口に当てた。

やっぱり口実だったんじゃない。

ガジルの慌てぶりからして、劇の内容が楽しみだっただけとは思えない。レビィの想いは一方通行というわけでは無さそうだ。
二人きりにさせてあげよう、とナツのマフラーを引っ張ると、彼はその勢いを利用するかのようにふんぞり返った。

「へへーん、オレは別に竜に釣られたわけじゃねぇからな!」
「てめえはいっぺん死んで来いっ!」
「なんだと!?」
「やるか!?」
「ああもう!止めなさい!」

ぐい、とマフラーを手繰り寄せ、鼻息の荒いナツを制する。「始まっちゃうでしょ!」と諭すと前に進もうとする力は落ちたが、興奮が冷めないのかぎりぎりと歯軋りした。






ガジルくーんっ!たにし、愛してますーっ!


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