がくり、と落ちたルーシィの肩に、そっと労りの手が添えられる。

「今のは酷いよ、ナツ」
「何がだ?」
「あのね、ルーちゃんはナツが、」
「わー!止めて、解説しないでー!」

勝手に盛り上がっていたことを知られるのは恥ずかしすぎる。
涙目になりながらもレビィを制止して、ルーシィはナツに向かって出来る限り平静な声を発した。

「ええと、ハッピー、ウェンディ達の仕事にくっ付いて行ったんだっけ?」
「うん。ルーシィで遊んでれば、って言われた」
「あんのクソ猫…」

ぐ、と拳を握ってお仕置きを心に誓う。
ナツがことり、と首を傾げた。

「で、どっちなんだよ」
「あ、行くか行かないか?えっと、」
「いあ、泊まってっていいのかどうか」
「泊めないわよ!」
「止めない?じゃあいいんだな」
「あんたがあたしんちに泊まることを許可しない。オーケー?」
「ちぇっ」
「舌打ちしない!」

くすくすと笑いを零すレビィに恨みがましい視線を向ける。
ナツは二人に背中を向けると、肩越しに片手を上げた。

「んじゃ、先に帰って風呂入ってるな」
「あ、うん…って、あたしんち!?」

返答はなかった。機嫌の良さそうな足取りで、ギルドから出て行ってしまう。
結局、ルーシィが返事をしなくても決定事項になったようだ。明日の観劇も、恐らく今夜泊まっていくのも。
勝手極まりない行動に頭が痛む。こめかみを指で押すと、レビィが溜め息を吐いた。

「ルーちゃんとナツこそ、仲良いよねえ」
「振り回されてるだけよ」
「あはは、それでもさ。お互いが特別って感じがして、羨ましい」
「お互いが特別、ねえ…」

悪い気はしない。ギルドで最も関わりが多いせいか一番心を許せる存在であり、わがまま放題にも最終的には目を瞑ってしまう。ルーシィにとってはナツは特別と言って良かった。
しかし彼もそうだという自信はない。
人一倍仲間思いで、ギルドメンバーは皆家族、と公言するナツだ。たまたま自分が、彼の近くに居るだけにも思う。
彼の『特別』は相棒のハッピーだけなのではないか。
それに不満などないが、寂しくはある。

「ナツはどうかわかんないよ」
「えー?ルーちゃんにだけだよ、あんなに容赦ないの」
「それ頷きにくい…」
「ていうかさ、ルーちゃんってナツのこと好きなの?」
「はあああ!?」
「あれ、そういう話じゃないの?」
「ち、違うよ!仲間として!」
「ふうん?」

レビィはなお疑わしげな――というよりも楽しそうな――視線を投げかけてきたが、ルーシィはぶんぶんと頭を振ってそれを否定した。
恋ではない。決して恋などではない。
正直まともに恋愛経験のないルーシィには、その感情がはっきりとはわからない。しかし本で読むような、その人を想って眠れない、などという状況には陥っていない。だから違う。

大丈夫。

何かに蓋をするように、ルーシィは自分に言い聞かせた。先ほどもそうだったが、無駄な意識は疲弊するだけだ。

「もう!ホント、違うから!…レビィちゃんは自分のデートのことだけ考えてなよ」
「うわ、ちょっとやめてよー、急に緊張してきた」

両頬を押さえて、レビィはぎゅ、と目を瞑った。
勇気を出して、覚悟を決めて。恋を成就させようと懸命に頑張る彼女が、ルーシィには輝いて見える。

ガジルの奴、幸せ者よね。

ふんわりと微笑んでから、ルーシィは気付いた。

「あ、明日!レビィちゃん、ガジルを誘ったの、明日の公演じゃないの!?」
「そうだよ」
「やだ、あたしってば!ごめんね、ナツには違う日にって言っておくから!」
「ううん、大丈夫だよ。劇場広いし、そうそう鉢合わせなんてしないって」
「そ…うかな」
「うん。ナツ、嬉しそうだったし」
「暇つぶしが出来て、ね」
「そうかな?それこそ口実じゃない?」
「ちょ、やめてよ…」

家に帰ったら当たり前のようにナツが居るだろうに、また変に身構えてしまいそうで。
じわりと熱を持つ首筋を、手で撫でた。






押し切られるのは、本気で嫌がってないから。


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