ルーシィは軽く咳払いした。
「ペットでも飼ってるような気分だわ」
「おし、飼われてる気分になってやってもいいぞ」
「あい、オイラもー」
「なんで上から目線なのよ」
無駄な気合を見せるように空中に拳を振り上げた二人に溜め息だけを投げて、ルーシィは背を向けた。自分用のタオルケットをソファに用意して、洗面所で寝る準備を整える。
部屋に戻ると、ナツがごろりと転がって唸り声を上げた。
「あー、ずっとここで寝てたい」
「オイラも」
「あんたら、ホントにあたしんち好きね」
「うん」
「あい」
即座に肯定されてしまい、何も言えなくなる。
誤魔化すように再び咳払いをして、ルーシィは伸びをした。
「あたしも寝よっと」
家主のはずなのにソファに寝転び、タオルケットをかける。思ったよりは寝心地は悪くなさそうで安心した。
明かりを消すと遮光ではないカーテンから、月の光が漏れてくる。
ナツがもぞりと動いた。
「なあルーシィ」
「何?」
「ずっとここで寝ている方法を考えたんだけど」
「もうちょっとマシな考え事ないわけ?」
「ナツが考えるってだけでも凄いことだよ」
「酷くねえか…まあいいけど。でよ、これ、起きなきゃいいんじゃね?」
「はあ?」
「今回だけ、だろ?今回がずっとなら良いんじゃねえの?」
「っ、明日までだからね!」
「あ、言い換えた。ずっりぃの」
「ずっりー」
「うっさい!おやすみ!」
「へいへい、おやすみ」
「すみー」
本当は、こんな日がずっと続けば良いと思っている。ナツとハッピーの訪問はいつも突然で迷惑だが楽しい。
帰ってしまうのが、寂しくなるほどに。
(や、あたしは別に、そんなんじゃ!)
ルーシィがこんな風に思っていると知れば、ナツ達は調子に乗って毎日泊まると言い出しかねない。
なぜだか早くなった鼓動を手で押さえると、さらにその勢いが増したように感じた。
もしも――。
(もし、あたしが言ったら、ずっと一緒に居てくれるの、かな)
ナツがぽつりと口を開いた。
「なあルーシィ」
「今度は何よ」
恥ずかしさも手伝ってやや怒気を孕んだ声で返してやると、ナツはそれはそれは楽しそうなトーンでルーシィに告げた。
「明日って来ないんだぞ?」
それは言うなれば言葉遊び。明日は来る、確実に。
でも。
考えていたことを見透かされたみたいで、ルーシィはとっさに返事が出来なかった。
「…ルーシィ?寝たのか?」
衣擦れの音がする。黙った彼女を不審に思ったのだろう、ナツがこちらを見ているのがわかった。
かああ、と耳が熱を持つ。しかしこの暗闇ならば気付かれはしないはず。
必死で息を殺すルーシィに、
「おやすみ」
ナツの声が、優しく聞こえた。