がんばらんば





大振りの攻撃を避けるのは簡単だ。
軽いステップで踊るようにかわし、身体を反転させて炎を纏った拳を叩き込む。一撃でバランスを崩したモンスターはそれでも雄叫びを上げて向かってこようとしたが、ナツは間髪入れずに左足を繰り出した。

「火竜の鉤爪!」

一閃――炎の帯が空気を切り裂く。
今日は頗る調子が良い。
ずずん、と重い音を響かせて倒れたモンスターの前で、ナツはび、と決めポーズをとってみせた。

「どうだ!」
「おお!さすがナツです!」

遠巻きにしていたハッピーから賞賛の声が上がる。それに片手の親指を示して「そうだろ!」と応じると、青い猫はうんうん、と頷いた。

「オイラがルーシィだったらナツに惚れてたよ」
「っ…」

びく、と肩が強張る。ナツは大きく息を吸って、相棒に半眼を向けた。

「あのな、ハッピー」
「なに?」
「…いあ、いい」

悪びれもせず首を傾げる猫に言葉を飲み込む。
ハッピーはナツのルーシィへの感情を邪推しているようだった。時折こういうセリフを吐いては、ナツを動揺させて楽しんでいる。何度否定しても聞き入れてもらえず、自分が恥ずかしくなるだけだと学んだナツは、反論はせずに口を尖らせた。
ルーシィは仲間でチームメイト。一緒に居て楽しいと思っているし勿論好きだったが、二人の間にあるものは決して恋愛感情ではないはずだ。何よりナツはそういったことを避ける傾向にある。惚れた腫れたの話題はむず痒くてなんだか居た堪れない。

仲間は家族、でいいじゃねぇか。

ざわついた心を押し込んで、ナツは辺りを見回した。開けた丘は遮る物が何もない。少し離れたところでエルザがモンスターを懲らしめているのが見える。

「ルーシィは?」
「気になる?」
「かっ、確認しただけだろ!?」
「何よ、呼んだ?」
「っ!?」

肩どころか全身跳ねさせて、ナツは慌てて振り返った。モンスターの陰からきょとん、とした淡褐色の瞳が現れる。

「お、お前いつからそこに居たよ!?」
「え、今さっき来たとこだけど?」

セーフ。話を聞いていた様子はない。
ナツはほっと胸を撫で下ろした。倒したばかりのモンスターは泡を吹いていて、それをやや迂回するようにルーシィが近寄ってくる。

『オイラがルーシィだったら――』

ハッピーの言葉がリフレインする。ナツはほとんど無意識に口を開いた。

「ルーシィ、お前…」
「ん?」
「見てた、か?」

足元のハッピーがにやにやと視線を送ってくる。言ったと同時になんでこんなこと、と後悔した。
マフラーで顔の下半分を隠し、なんでもない、と誤魔化そうとしたが、

「うん、見てたよ」

ルーシィの返事の方が早かった。
ぼぼぼ、と火が点いたように顔が熱を持つ。「そ、そう、か」ぎこちなく口を動かして、ナツはルーシィを窺い見た。

「ど、どう思った?」
「ん、カッコ良かった」

ずきゅん、という音を、ナツは確かに聞いたと思った。
言葉の内容よりも、ルーシィの笑顔が心臓を撃ち抜く。嬉しそうで幸せそうで、ナツの大好きな笑み。それが今、自分に対して向けられている。
くらり、と目眩がした。
彼女は上気させた頬を両手で挟んだ。

「ホント、カッコ良かったぁ」
「そ、そそそ、そうか」
「うん、あのタイミング!さっすがエルザよね!」
「…エルザ?」
「綺麗だしカッコ良いし、あたしが男だったら好きになっちゃうかも!なーんて」
「どんまい」

明らかに笑いを堪えたトーンで、ハッピーがナツの足をぽん、と叩く。
話題のエルザはこっちに向かって来るところだった。大剣を肩に担ぎ長い赤髪を靡かせて、颯爽と歩いてくるその様は、百戦錬磨の彼女らしく――格好良い。
すぅ、とナツは息を吸った。

「エルザぁあああ!勝負だぁああっ!!」
「え、ちょっと!?」

がぁっと炎を吐き出して、地を強く蹴る。エルザはいきなり喧嘩を売ってきたナツに首を傾げた。

「どうかしたのか、ナツ?」
「うっせぇ、オレと勝負しろ!」
「今ここでか?後にしろ」

エルザは冷静に言ってのけた直後。
攻撃範囲に入ったナツを一瞬で地面に沈めた。






違うと思っていても。


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